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その全て3
「彰広?」
彰広は茫然と立ち尽くしていたが、名を呼ばれてビクリと振り返った。
透が寝室のドアを開け、リビングで立ち尽くす彰広を見ていた。
「透!!」
彰広はすぐさま透に駆け寄り、その体を抱きしめる。
合わさった胸から透にも伝わるくらい、彰広の心臓は狂ったように早鐘を打っていた。
透がそっと彰広の背を撫でた。
「言っただろ。俺はどこにも行かない」
透はため息を吐いた。
「透?」
「こっちに来い」
透に手を引かれ、彰広は寝室に入る。
彰広はベッドの端に座らされ、透は彰広を見上げるように、足元の床に座った。
昨日までとはどこか違う透の雰囲気に、彰広は戸惑っていた。
静かで、穏やかだ。
でも何かを諦めたような寂しげな空気がある。
「この部屋から逃げようと思えば逃げれた」
彰広の体が強張る。
「でも出来なかった。お前と二度と会わないなんて、俺には無理だ」
透は彰広を見上げて、静かに告げた。
「俺だって、お前が好きだ。彰広」
「透!」
「でも、俺とお前は違いすぎる」
ピクリと彰広の手が揺れる。
透は彰広の手に触れ、話し続けた。
「お前は迷わない。でも俺は迷う。黒田のことも………。あんなことをされても、お前があいつに何をしたのか知りたいんだ。お前がやった事は俺のせいでもある」
「違う! お前は関係ない! あいつは俺が」
「彰広」
透は彰広を制止して、言葉を続けた。
「半分よこせ。お前一人で抱えるな」
「透………」
「俺はこれから先も、多分迷うし悩むと思うよ。でも、お前と離れるのだけは嫌だ」
どこまでも水面のように静かに、透の瞳は彰広の目をまっすぐに見つめている。
「それでもいいか? 彰広。俺はお前みたいに強くないから、きっとまた悩む。それでも彰広、俺といてくれるか?」
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