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第3話 仲直りしましょう

 あれから、俺はトナカイを続けている。なんか全部が虚しかったし、もうなんのためにバイトしてるのかも分からなかったけれど、俺が投げ出したら迷惑かかるから。  こんな時、着ぐるみって便利だって思った。トナカイの中で俺がどれだけ泣いていても、外からは見えないから。  三代川さんは心配してくれた。でも俺は空元気で「大丈夫っす」って言った。だって、そう言わないと動けないじゃん。大丈夫じゃなくても「大丈夫」って言ってないと、泣いちゃうじゃん。  分かってるよ、どっかで電池切れてきっと俺大泣きする。今でも部屋で泣いてる。  それでも、忘れられないんだ。  どうするんだよ、俺の体こんなに開発しておいて。もう、電車で痴漢くらいじゃ全然興奮しないんだ。ここで散々エッチしたのを思いだして、体が熱くなるんだよ。でもそれは所詮妄想で、本物が欲しいのにそれはなくて、自家発電のおかずにして達しても、その後すんごい虚しいんだ。 =====  そんなこんなで、12月24日はあっという間に来てしまう。見せつけるように、恋人達が沢山だ。リア充爆ぜろ。  今日はバイト最終日。20時閉店だけど、19時で上がっていいって言われている。  本当ならその後で和樹の家に行って、二人で過ごすはずだった。今日は和樹の両親は父方の実家に行くから不在だって言っていた。誘われたけど「亮二と約束あるから」って言って断ったんだって。嬉しかったのに、今は悲しい。  真っ白く燃え尽きたような俺は、やけくそでトナカイをしていた。夕方になって、空が薄暗くなってくる。18時が近い頃、俺は背中をツンツンされた。 「正木くん」 「秋川!!」  俺は驚いて声を上げてしまった。そこには可愛い私服姿の秋川がいる。明らかに「これからデートです」って感じだ。  胸に色んな物が刺さってくる。その相手は和樹なのか。俺に声をかけてきたのは、俺を牽制しにきたのか。不安と緊張で心臓痛い。 「正木くん、ちょっとだけいい?」 「え? あの…」 「大事な話。お願い!」  顔の前で手を合わせる秋川に、俺は負けた。30分の休憩をもらって、俺は秋川について近くのマックに座った。 「話って…なに?」  この一言を切り出すのに、俺はかなりのMPを使った気がする。精神的消耗って、体力使うよりしんどいんだ。  秋川は苦笑いして、「うん、とね…」なんて言う。女子のその勿体ぶった感じが男の寿命縮めてる気がする。 「正木くんって、和樹と付き合ってるの?」 「それは! あの…」 「どっち?」  問い詰めるような感じに、俺はオロオロしながら小さく頷いた。これも風前の灯火だけど、まだ「別れた」と認める勇気はない。言いたくない。俺は今も、和樹が好きだから。 「付き合ってるって、言いたい。俺は、好きなままだから」  秋川は目を丸くした後で、なんだか嬉しそうに笑った。その笑顔の意味が分かりません。 「そっか。和樹喜ぶだろうな」 「…え?」  喜ぶ…ですか? 「だって、すっごく落ち込んでさ。恋人と喧嘩したって。しかも原因が私なんて、ちょっと責任感じちゃうし。それで、フォロー入れにきたの」 「え? フォロー?」 「そう。私、和樹とはお付き合いしてません。っていうか、彼氏いるんだ」 「えぇ!」  なんか訳ありそうに歩いていたのに、一緒の店行ったのに、二人きりで。なのに付き合ってない? 秋川に彼氏いる? 和樹遊ばれたのか? 落ち着け俺! 「実は、一つ上の先輩でさ。ちょっと、悩んでたんだ。ほら、先輩卒業しちゃうし。それで、和樹に話し聞いてもらっててさ」 「え? あっ、そうなの?」  俺達は高校2年。来年には3年に上がる。秋川の彼氏は、来年3月で卒業か。それは、悩むよな。 「和樹って、話しやすいし聞いてくれるから頼っちゃって。でもそれで、正木くんと喧嘩したって、今度は和樹が凄く落ち込んでてさ。あいつ、そういうの全部タイムに出るんだよね。だからここ数日ボロボロ」  なんて笑っているけれど、俺的にはあまり笑えない。 「ごめんね、誤解させて。私も少し軽率だった。それで、今日和樹迎えに行くって言ってたから、受けてあげてね」  申し訳なく笑い、思いきり頭を下げた秋川に、俺の方が申し訳無く頭を下げた。  その時、マックに一人の男が入ってきて、秋川は「あっ」と嬉しそうに声を上げる。見ればそれは3年の水泳部の先輩だ。 「話終わったか?」 「うん」 「それなら行くぞ。ケーキ買うんだろ?」 「直ぐそこのお店のがいい」 「別にいいけど」  直ぐそこのお店は俺のバイト先のお店です。  秋川は幸せそうに可愛い笑顔を浮かべながら、俺に手を振る。俺もそれに、力なく手を振った。  俺の勘違い。俺の早とちりだった。それで和樹をなじって、傷つけてしまった。  申し訳なくて、泣きそうで、でも会いたくてたまらない。会ったら謝って、もう一度お付き合いしてくれるか聞いてみて…。  そんな事をずっと、頭の中でシミュレートしていた。  バイトも残す所五分。俺は悶々と考えながらも体を動かした。動くって大事だな、余計な事を考えなくていいし、頭の中も動く。  そうして愉快なトナカイを演じていると、その先に見たくてたまらない人の影があった。黒のダッフルコートの和樹は、俺を見て力なく笑っている。俺は、泣きそうだ。 「トナカイさん、この後空いてる?」  俺は頷いた。声は泣きそうで震えていて出せなかった。 「じゃあ、俺と一緒にクリスマスを過ごしてくれますか?」  何度も何度も頷いた。嬉しすぎて泣きそうだ。ごめんなさいが沢山だ。このトナカイ、俺の汗と涙を吸いまくってる。 「良かった。じゃあ、ここでケーキ選びながら待ってるからね」 「あい」  優しいサンタがトナカイを迎えにきてくれたから、トナカイはお家に帰る事ができます。

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