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王子様
学校に行く時、毎日晶と一緒だ。
話すことは他愛のない事だったり、大切な大切なエーデルシュタインのこととか、大切な大切な大切な(以下略)翼くんのことを話している。
ひたすら、晶はうんうんと頷きながら(流しながら)、聞いてくれている。
今日の放課後、部活を支える2年生の一部の人たちが、体育館で一年生を対象に説明会を行ってくれるらしい。
「晶、どの部活に入るか決めてる?」
「面倒くさくないやつがいい」
「えー何それ。文化部とか?」
「何でもいい。お前はどうすんの」
「んー……」
文化部にしようかな。
本当は水泳部入ろうかなって思ってたけど、今の俺じゃ、ろくに泳げないし、大会に出ても個人でも団体でも結果を残せない。
かと言って、他の運動部に入るのもなぁ。
「おい!丞!前見ろ!!」
慌てた様子の晶の声は、一歩遅く、俺は前を歩いていた男子生徒の背中にぶつかってしまった。
「あっ!すみません!!」
ぱっと上を向くと、そこには王子様が立っていた。
スクウェアタイプのメガネを掛け、長身で、足が長くて、艶のある黒髪……。
この人、まるで……
「いえ……、大丈夫です」
そのまま、前を向いてスタスタと歩いていってしまったが、まさかこんな所で、こんな所で……
俺が固まっていると、晶が心配して俺の顔をのぞき込む。
「丞?大丈夫か?」
「晶、今俺……翼くんに会っちゃったよ……」
「…………頭、打った?」
もうそれからは俺、朝会った翼くんのことで頭がいっぱいで、全く授業に集中出来なかった。
だって、あの翼くんだよ!?
あんなに間近に見たの小学校の時の握手会以来だよ!
あの握手会以来、ファンが増えちゃって、握手会の抽選外れまくってて、会えなくて、俺にとってはテレビの向こう側の人、アニメで言えば、二次元的な人物なんだよ!!
ファンが増えるのは凄く嬉しいんだけどね!!
「はぁ~~」
ついため息出ちゃう。
願わくば、再会したい、翼くん。
一句ひねっちゃうくらい、会いたいよ。
「九重、この問11を前に出て、答えなさい」
「はい……」
あぁ……何で俺は翼くんと同じ世界に生きてるはずなのに、こんなに遠いんだろ。
「九重」
「はい……」
「今は、数学の時間だ」
俺は前の授業で使っていた歴史の教科書を見て、「アウストラロピテクス」と因数分解の式の下に書いてしまっていた。
数学の久志本に職員室に呼び出され、しっかり怒られてきた俺は、晶のいる教室に戻った。
「おかえり。怒られた?」
「怒られたけど、なんとか生きて帰ってこれた」
「体育館行こうぜ」
「え?体育館?何で?」
ぽかんとする俺の顔を見ながら、晶ははぁ……とため息をつく。
あ、俺をバカにしている時の顔だな!?
「お前、マジで朝から何も聞いてねぇのな。合宿の説明会あるって言ってたじゃん」
「合宿……?あ!!」
そうだ。この学校には、交流合宿というのがあって、近くの青少年の森の施設で合宿がある。
その説明会が体育館で行われるのだ。
「すっかり忘れてたわ……」
「忘れてたんじゃなくて、聞いてなかったんだろ」
まぁ、そうなんだけどさ。
翼くん(仮名)に会えた喜びで、全部吹っ飛んでた。
体育館に行くと、一年生は全員集まっていた。
こうやって見ると、うちの高校って結構マンモス校なんだな。
前には部活の紹介をするため、二年生達が集まっている。
翼くん(仮名)がいないか、前の方を見るも運動部らしいガタイのいい奴らばかりで全く見えなかった。くそー。
「丞、整列だぞ」
晶に腕を引かれ、列に並び、体育座りで前を見る。
「これより、部活紹介を始める。まず、運動部から」
先生の進行で、部活紹介が始まった。
部活動に力を入れてるから、運動部は特に体を張って紹介している。
フェンシングとか変わってるよなー。
迫力あるし。
文化部もユニークだ。
新聞部の情報網すごそう……っていうか、先生たちの個人情報が筒抜けじゃんっ!
面白いけど、敵に回したやばそう……。
その次の次の部活紹介に俺のテンションがぎゅーんっ!と上がった。
「一年生の皆さん、書道部の藤田です」
王子、キタコレ……!
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