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愛して

『なんか……イメージと違う』 『もっとクールな人だと思ってた』 『かっこいいし、なんでも出来る……私じゃ、不釣り合いかな』 恋愛をするのは楽しい。 いつだって、恋人といる時はキラキラフワフワした中にいられる。 一度愛したら、全力で愛したいし、全力で愛されたい。 それは、おかしなことなのか? 『士郎くんの愛って……ちょっと、重いんだよね』 愛の重さって……何? うちの高校と同じ系列の女子校、花苑女子学園の子と付き合っていた。 そして、一週間前に別れた。 恋はそれなりに経験している。 抱きしめたり、キスしたり……それ以上も。 でも、何故か長続きせず、すぐに別れてしまう。 あんなに愛していたのに。 何がいけなかったのか、何が不満だったのか……。 別れた後は、いつも同じ疑問にぶち当たる。 その疑問は解決しないまま、また付き合い始めるから、同じ結末に至る。 (難しいな……) この難題は、しばらく解けそうにない。 さくら商店街を抜けて、僕が通う東陵学園への坂道をのぼる。 ぼーっと、一週間前に別れた子のことを思い出していると、ドンッと背中に誰かがぶつかる。 後ろを見ると、一回り小さい男子高校生。 赤いネクタイをしているから、一年生かな。 「あっ!すみません!!」 「いえ、……大丈夫です」 まだ、夢の中にいるみたいにぼーっとしてしまう。 ぶつかってきた彼のことは、昇降口に来た時にはもう覚えていなかった。 「おーい!藤田!」 「鈴木先輩」 鈴木先輩は僕が所属している書道部の先輩で、進学科の三年生になったため、部長になった。 「藤田、今日の部活紹介よろしくな。副部長になっての初舞台、頑張れよ」 「よろしくお願いします」 書道部は二年生が副部長に選ばれ、三年生で部長になるのが通例だった。 そして、副部長が部活紹介をすることになっている。 忙しくなりそうだな。 放課後、体育館に一年生たちが集まり、ザワザワとしながら待っている。 先生の一言で、すぐに静かになり、運動部から紹介が始まった。 野球部の素振りから始まり、卓球部のピンポンお手玉、柔道部の背負い投げ……様々な体を張ったパフォーマンスを見せながら、部活の紹介をしていく。 さすが、運動部。体を張るパフォーマンスは迫力がある。 水泳部の水着姿(上半身の筋肉美)に歓声が上がった後、文化部の紹介が始まった。 文化部は同好会を含めて九つあり、その中で書道部の紹介は三番目。 新聞部の先生の個人情報公開という衝撃的部活紹介から始まり、天文部の星座と神話のロマンチック朗読の次に、書道部の紹介が始まった。 「一年生の皆さん、書道部の藤田です。まずはこの字を見てください」 半紙にはミミズが這ったような『愛』という字が書かれていた。 字が汚かった部員の字だ。入部したての時は筆の持ち方さえも怪しかったのを覚えている。 もう一枚、『愛』という字を出す。 流れるような美しい字。 最初に置いた筆の一点もいい所に置いている。 払いの部分の掠れも、良い。 「これは入部したての一年生が一年でここまで上達した証です。綺麗な字は一生モノです。初心者の方でも一から教えますので、入部お待ちしています」 藤田はにこりと微笑むと、一部の生徒がざわめいた……というよりときめいた。 その様子に部長の鈴木はガッツポーズをした。 藤田の王子様フェイスは書道部の宝だ。 部員が釣れるはずだ……! 鈴木はくすくすと舞台袖でブラックな笑顔でほくそ笑んだ。

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