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第18話

「……ひーらぎさーん」 「……はぁい」 時刻は既に21時を回っている。 健康優良児なりぃは少し前から夢の中で、自分の毛布に包まりぴすぴすと控えめないびきが聞こえてきていた。 一方帰宅直後二階の伊織さんの部屋に突撃した俺は、ソファの上で膝を抱えてふてくされている。現在進行形で。 迷惑でしかないだろう俺の態度に、しかし伊織さんは怒るでもなく2人分の缶チューハイをテーブルに置き俺の隣に腰掛けた。 それから、楽しそうに一言。 「妬いた?」 「妬きました」 そもそも独占欲って、言い換えたら嫉妬じゃないか。その時点で気づくべきだったのに、馬鹿な俺は曲が始まるまで呑気に構えていた。いや、いつも通り伊織さんの歌は最高だった。最高だったからこそ、余計にもやもやする。 綺麗で甘やかに歌う伊織さんの隣は、俺の特等席だったのに。伴奏をしているのは俺じゃなくて、曲中に目線で合図を送られるのも俺じゃない。自分の技術に自信なんかない癖に、"俺ならもっと伊織さんが自由に歌えるように弾ける"とか思ったりして。 正直、気が気じゃなかった。一歩間違えたら途中で割り込んで、無理やりその席を奪ってしまっていただろうってくらい。 「自分がこんなに傲慢な奴だったなんて知りませんでした」 「傲慢って?」 「……一瞬、"俺の伊織さんなのに"って思ったんです。伊織さんは誰のものでもないのに」 お酒をありがたく頂戴して、ぐい、と勢いよく煽る。今年の始めに成人してから何度かお酒は飲んだけれど、こんな飲み方をしたのは初めてだった。あーむしゃくしゃする! 「柊がそう思ってくれてる限り俺は柊のものだよ」 なんて言って笑う伊織さんは、何故か少し嬉しそうだった。俺はむ、と口角を下げて、缶に口をつける。 伊織さんに肩を抱くようにして引き寄せられたのは、その瞬間だった。 「い、伊織さん?」 「んー?」 「ちょ、っと。なんですか急に」 ちゅ、と首筋に口付けられて、声が跳ねる。 ご機嫌取りしよっかなぁって。 そう呟いた伊織さんが、軽々と俺を抱き上げる。急に宙に浮いて慌ててその首に腕を回すと、一際甘い声が耳元で誘う。 「アイリーンに感情移入する練習してるんだろ?」 「は、い」 「なら、教えてあげる。心の底から愛されるっていうのが、どういうことか」 ……20歳の誕生日の初体験以降そういう行為は何度かしていて、だからこの空気の意味もわかっている。いるからこそ顔に熱が昇ってきて、ぱくぱく意味もなく口を開閉する俺を隣の寝室に運びながら、伊織さんが囁いた。 「ちょっと乱暴にするから覚悟しろよ、柊」

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