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第21話

気がつけば、星のない夜空が視界いっぱいに広がっていた。 網膜に焼き付いた車のライトの色と、ボンネットが迫ってくる光景を思い出す。 何が起こったのかを把握するのは、そんなに難しくなかった。 体が動かない。 手をついて起き上がろうとした筈なのに、両腕はだらりとアスファルトの上に放り出されたままで。指先だけが、微かに動いている。どこが痛くてどこが苦しいのかがわからない。季節外れの雪が肌に触れる感触すら曖昧だ。寒くて、熱くて、冷たい。ただ、どこからかだらだらと漏れ出している血液の感触が気持ち悪かった。 人間はどれだけ出血したら死ぬんだったか、なんて考えが頭を過ぎった。死ぬのかな、俺。交通事故のニュースは毎日のように目にするけれど、自分がその一例になるかもなんて考えたこともなかった。 ずっとこのままだったら、俺はきっと死ぬんだろう。 母さんだって死んだんだから、俺が死なない筈がない。 あぁでも、死にたくないなぁ。 まだ歌ってない感情がある。そうだ、それに、りぃを置いては逝けない。今までずっと一緒にいてくれた。こんな形で別れたくない。それから。 寂しがりやなあの子を、一人にしたくはないなぁ。 まだ、これからなんだ。これからたくさん、色んなことをするって約束した。色んな音楽を演るって、約束した、のに。 嫌だな。 死にたくない、なぁ。 そんなことを、ぼんやり考えている。 ふと、固定された視界にこちらを覗き込む人影が入り込んだ。あれ、もしかしてあの人、運転してた人か?出来たら逃げないで、せめて救急車でも呼んでってくれたら。なんとか首から上を動かして、そちらを見る。息がし辛いけど声は出るだろうか。でも、死にたくないから。助けてくれと言おうとして、その時やっとわかった。 俺を轢いた運転手が、こちらを鋭く睨みつけていたことを。 思わず固まった俺に、その人は言った。 まるで呪いをかけるみたいに、呟いた。 「__________________、」 言葉の意味を理解した瞬間、ひゅ、と喉が鳴った。 声を飲み込む、音がした。 人影が立ち去るのを引き止めることもできず、俺はただ転がっていた。 黙って見送って、湧き上がってきた感情を反芻する。 そうか。これが―― これが悲しいってことなのか。 痛いなぁ。あぁ、痛い。 痛いのに。こんなに痛くて、悲しいのに。 それでも泣けない自分が、酷く滑稽だった。 第1.5部『クラウディア』 完

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