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第25話

初めて出会った時、伊織さんにもこうやって手を掴まれたんだよな。そんなことを思い出して、咄嗟に振り払う直前でなんとか踏み止まる。あの時とは違って俺ももう大人だ。ちゃんとそういう対応をしなければ。 改めて見返せば、青年は俺よりも歳下のようだった。生憎と交友関係が狭いから、彼が知り合いではないことくらい容易にわかる。けどじゃあ、なんで俺を知ってるんだ。人前に出る時は大抵顔を隠しているのに、どうして。 やっと会えた、なんて言葉が出るのだろう。 「あの。あなたは……?」 おそるおそる口を開くと、青年ははっとしたような表情を見せ慌てて俺の手を離した。ごめんごめん、なんて言って頬を掻いている彼に怒っている様子はない。りぃにぶつかられて怒ってる訳じゃないのか。そう思うと少しだけ肩の力が抜けた。――と言いつつさりげなく一歩後ずさってしまったのは、気付かれていないと思いたい。 「俺は出海悠太。出る海でいずみ。修学旅行の修にしたごころ付けた感じの“悠”と太郎の“太”で“ゆーた”。室蘭市立高校2年。だいぶ前にあんたと会ったことあんだけど、……覚えてねぇよなー」 「……すみません。あ、俺は一ノ瀬柊、です」 見た目に反して几帳面な人なのか、指を動かして漢字まで教えてくれた彼にぺこりと頭を下げる。申し訳ないが全然覚えてない。室高ってことは後輩な筈だけれど、在校時期が被ってないならほとんど無関係みたいなものだ。 彼自身も「まぁちゃんと話した訳じゃないし、」と呟いて、考え込むように口元を隠した。むしろそれだけの関わりでよく覚えてたなこの人、と変に関心していると、いつのまにか寄ってきていたりぃが小さく鳴いてみせる。 こういう場合、もう立ち去っていいんだろうか。 とりあえず「散歩の途中なので」とか断りを入れよう、と俺が彼を見上げたのと。なにかを思いついたらしい彼がきらきらした目でこちらを見下ろしたのは、奇しくも同時だった。 口を開いたのは、わずかに彼が先。 「Mr.Musicってさ、今バイトとか募集してる?」 「……はい?」 急に何を言い出すんだこいつ。 そんな感情が顔に出ていたのか、彼はにこやかに笑ってこう言った。 「実はあんたに一目惚れしたんだよね」 好きな子と少しでも接点欲しくて、でもいきなり付き合ってって言っても見込みないだろ? なんて続けられた言葉を俺の脳は全然受け止めきれず、なんにも理解出来ないままこちらを見上げるりぃへ視線を逃す。 何がどうしてこうなった。

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