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第28話
「なるほど、熱烈だねぇ……」
「助けてくださいよルカさん」
「そーいわれても。っていうかお前変なのにばっか好かれるなぁ。伊織といいその出海クン?といい……ご愁傷様」
「そんな殺生な」
うぅ、と丸テーブルに突っ伏した俺を対面から気の毒そうに見下ろして、ルカさんはくるくるとストローでアイスコーヒーを掻きまわす。
氷がぶつかり合って小気味好い音を立てる。ミルクと珈琲が溶け合っていくのをぼんやり眺めていると、苦笑混じりにルカさんが口を開く。
「でも別にコンビ解消して自分と組んでくれって言われてる訳じゃないんだろ?ふつーに後輩として扱ってやればいいんじゃねーの」
「それが……そうもいかないみたいで」
脳裏に蘇るのは、数ヶ月前の出来事。“その体に音楽のなんたるかを叩き込んでやる!”って意気込むテオさんに引きずられながら、彼が告げたその言葉だった。
「“今は無理でも、いつか絶対俺の伴奏やりたいって言わせてみせます!”って、言われました」
「……あー。それは、」
「良いんですよ、別に。何を目標にするかは個人の自由ですし。でも」
「もしもこのことが“今の”伊織さんの耳に入ったら、と思うと。嫌な予感がするんです。あの人が俺に変な遠慮してることくらい、わかってますから」
「あいつあれで案外マイナス思考っつーか……人付き合いに関しちゃあ諦め良いからなぁ」
「お待たせしました、アイスショコララテホイップクリーム多めチョコソースとチョコチップトッピングですー」
そう呟いたルカさんが最後の一口を飲み干したところで、タイミング良く店員さんがテイクアウトのドリンクを持ってきてくれた。
テーブルに置かれた紙袋から覗くのは、これでもかとばかりに糖分を飾り付けたカロリーの化け物みたいな伊織さんの好物。昔っからこんなもん常飲してよく太らないな、ってぐらいには甘そうなそれをルカさんは片手にひっつかんで、もう片方の手にはトレイを持ち立ち上がる。つられて俺も席を立ち、店員さんに小さく頭を下げて店を出る。
「まぁとりあえず、差し入れがてら様子見に行こうぜ。報告するかどうかは別として、さ」
「……はい」
頼りになる先輩の笑顔に、少しだけ落ち着いた気がして。目の前にそびえる市立室蘭総合病院へと歩き出すルカさんの背中を、俺は駆け足で追った。
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