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第37話

『地球岬にて待つ』 ただそれだけが書かれた真白い紙を片手に、俺は首を傾げた。筆跡は、多分柊だ。でも、どうして地球岬。 ……いやわかってる。この間話した、引退の件だろう。きっと沢山悩ませて、苦しめた。だからこそ行ってやりたい気持ちはあるが、しかし。 問題は移動手段、なんだよなぁ。 もうほとんど治療は終わってるけれど、あくまで入院患者だ。付き添いがいなければ外出も出来ない。 申し訳ないけれど事務所の誰かに頼むか、と携帯を手にした途端。 「よぉ、おはよ」 ガラリと不躾にドアが開いて、ルカが顔を出した。 「可愛い後輩2人に頼まれたんだ、車くらい出してやりたいだろ?」 どうやらもう看護師さん達に話は通っていたようで、入院着の上からカーディガンを羽織らされた俺はさっさと地下の駐車場に連れてこられた。ルカの車だ。 促されるまま後部座席に座り、シートベルトを締める。それを尻目に慣れた手つきで車を発進させたルカは、こちらを見ずに言った。 「――引退するんだって?」 返事は、しない。 ルームミラー越しに視線を合わせれば、それだけで答えとしては十分だったのか“ふぅん“と気の無い反応が戻ってくる。 「本当は色々言ってやりたいこともあるけど、それは俺の役目じゃないからなぁ。でも、お前の相棒にだけはきっちり向き合ってやれよ。同期としての忠告、な」 あぁ、わかってる。 そんな言葉さえ、俺の喉からは出てこない。

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