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結局ちゃんと話しもできないまま万里は俺の前から消えた。 ちゃんと話そうと帰宅したときには万里がいたと言うことも幻だったかのように万里の気配は消えていた。 テーブルの上の手紙だけを残して。 万里らしい丁寧なとても綺麗な字 『せんちゃんへ 今までありがとう。 せんちゃんと過ごせた時間は俺にはとても幸せだった。 気付いてあげられなくてごめんね。 せんちゃんの言ってた通り別れるよ。 じゃあね バイバイ。』 残ったのはこの手紙とこの一人で住むには広すぎる部屋くらい 「ごめんね…万里…」 正直ほっとしてた…肩の荷が下りた気がした… あの時言われたんだ 「万里はもう結婚が決まっている。その人との婚姻を進めるには君の存在は…言わなくてもわかるだろ?君は賢いから」 何も言い返せなくて俯いて…万里の家の事情はちゃんとわかってた… それに俺の想いは万里と重ならなかった…これでよかった…よかったんだ… 翌日、一も百も突然消えた万里のことを心配して連絡してくれたけど万里の電話は既に誰のものでもなくなっていた。 その後俺たちは三人揃って卒業できた。 それぞれ別々の道に進み始めた俺たちは学生の頃とは違い集まることも減っていった。 就職して数年は月に一度は会えてた。でもそれも時が過ぎるにつれて減っていった 二人に会えたのは更に数年後。二人は夫夫になってた。 ここ数年で男同士での婚姻も認められたのだ。 俺は就職した先で縁があって職場の女性と家庭を持っていた。 それでも…万里のことは忘れたことはなかった。 友人として忘れられなかったんだ…たった数ヵ月の交際なんて俺の人生の中では一瞬の出来事だったんだから。 「千里。どうしたの?」 「ん?何でもないよ」 「…」 今すごく幸せ…そう…疑ったことはなかった。 「千里。話があるの」 「何?」 「離婚して?」 「え?」 「…子供ができたの。」 「は?」 そんなことあるわけない…俺はここ最近忙しくて最後に妻を抱いたのはもうわからないくらい前だ… 「…他に好きな人ができた」 あの時と同じだ…好きな人ができて… 「…わかった…体に気をつけて…もう一人の体じゃないんだから…ごめんな…俺が不甲斐ないばかりにお前に辛い思いさせて…」 「千里…少しくらい止めてくれても良いじゃない…もう…私への想いはないんだね」 好きだよ。愛してた。一生一緒にいたかった…でも…俺ではお前を幸せに出来なかったんだよね。 だから…好きだから俺はお前を手放すよ。 好きな人には幸せになって欲しいから… 「もう…いい…さよなら…」 妻が出ていった部屋を見渡す。 いつの間にこんなにあいつのものが失くなってたのだろう…全く気がつかなかった… 追いかければ何か変わるのかもしれない。でも俺はそれをしなかった… 「疲れた…寝る…」

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