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「せんちゃん?どしたの?」 ぼんやりとあの事を思い出していたら万里が不思議そうに顔を覗き込んできた。 「…ん?…こうして歩くの懐かしいね」 慌てて、目をそらして俯く 「そだね。楽しかったなぁ…あ!今も楽しいよ。こうしてまたせんちゃんとあの頃みたいにお話しできて良かった。ありがとうね。あんなに酷いことしたのに」 「…ねぇ。万里」 「ん?」 「継がないの?」 「へ?唐突だね。どしたの?」 「ううん…どうなのかなって。俺たちももういい年になってきたじゃん?継ぐんならやっぱりその次も必要なわけで…そろそろそうい…」 「嫌。せんちゃん以外のやつの子供なんて要らない。いやだ。それならもうここはきっぱりやめるって父に伝えてる。だいたい気持ちひとつないのに相手にも失礼でしょ?だから俺は後継者になることは拒否した。大丈夫。次の人は俺も知ってて絶対に大丈夫な人だもん。だって北川さんなんだから」 「え?」 「北川さんは俺の運転手でもあったけど仕事も一緒にしてたの。俺が任されたのがかなり前のことで若いってだけで言うこと聞かない人もいたからそういう人の教育は北川さんがしてたの。真の実力者はあの人なんだ。 俺の憧れの人。あの人に沢山色んなこと教えてもらった。あの人のお陰で俺は今のようになれたの。 だからせんちゃんのことよりずっと前から伝えてたんだ。父には。後継は絶対に北川さんがいいって。あの人でないとこの巨大な組織を統率することはできないって。やっとやっとその承認が降りてそのタイミングで父の専属運転手が引退してそれを機にさらに力をつけるため父の専属になったの。 あの人にはきれいな奥さんとすごく優秀な子供が三人いるの。奥さんもちゃんとしてる人だし子供たちも仕事しっかりできる人たちだし変な考えを起こさないとても優秀な人ばかり。 俺は向こうのホテルの支配人だけど今は代わりにそのうちの一人の人がしてくれてる。俺はそのまま退こうと思ってるんだ。手続きとか色々あるから一旦向こうに帰るんだけど、俺はもうどこのホテルにも属しない役職になるんだ。教育だけで世界を回る予定になってる」 「…」 「これは昔から決めていたことなの。だからこそ誰よりも勉強したし色々ちゃんとやってた。父にも北川さんにも迷惑かけたくなかったしこんな若造がって言われたくなかった。 この仕事はとても好きなの。だからどんな形でもいいから携わっていたい。 だけど息子だからってだけで支配人に抜擢されたと思う人も今でも少なくない。そんなの俺は嫌だ。だから実力をつける。誰にも何も言われないくらいの人になりたいの」 「継がないんだ…俺のせい?」 「違うよ。さっきいったでしょ?俺よりも適任がいるってだけの話だよ。ふふっ。そんなこと聞かれたら勘違いしちゃうよ。せーんちゃん。俺のことまだ好きなのかって」 「…っ」 「え!?ごめん!!嘘だよ!そんなに嫌われてるとは…えと…泣かないでよ。もう言わないから」 わかんない。何で自分が泣いてるのかなんて…きっとお酒のせい…。 万里は俺のことで継がないわけじゃないんだっていう安堵と少しの寂しさ… 俺は…

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