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「…ねぇ。せんちゃん」 「ん?」 「…ん~呼んでみただけ、こうしてまた呼び合えることが嬉しいな」 「…はぁ…好き…可愛い」 「もう!まだ、だめ…」 「わかってる。ごめん」 「…せんちゃん…何か…無理してない?」 「何が?」 「…前のせんちゃんと違う…」 「…あー…うん…そうだろうね。付き合ってたときさ…俺ね、この関係はいつか終わるもの。だから好きなわけない…好きだっていってくれるから側にいるだけ…俺は同じ好きじゃないってずっと言い聞かせてきたでしょ?だから瞬間瞬間で万里のこと可愛いって思ったことも好きだって思ったこともその他のことも口に出さなかった。自分の本音が見たくなかったから…気付きたくなかったから…だからその時言えなかったことが溜まりに溜まって…ってそんなこと言われても…だよな。ごめん。大丈夫。やめろって言うならやめる。今はお前に信じてもらう期間だもんな…ごめんな。…明日から…オープンだな…」 「そだね」 「みんな本当に成長したな」 「うん。優秀な子達ばかりで良かった。流石せんちゃんだね。今回の採用面接せんちゃんが面接官だったって聞いてるよ」 「万里のお眼鏡にかなったかな?」 「うん!せんちゃんは人を見る目があるからね」 「ははっ。ありがとう。俺が上になるんだって思って…俺が一緒に働ける人。俺を成長させてくれる人を中心に選んだ。俺はここじゃ止まれないし支える礎にならないといけない。そう思ったらね」 「みんなすぐにでも支配人出来るくらい気遣いの人ってことには驚いた。みんな経験者って訳でもないのにね」 「あえて経験者は減らした。前のとこの癖?っていうのかな?そう言うのを引き摺ったらここは良くはならないから」 気付けばホテルの下で一緒に見上げながらぼんやりする 「あれ?」 「あ!!お疲れ様です!!支配人!副支配人」 「どうしましたか?」 そこにいたのはまだ若い一人の従業員だった。良く笑う子で他の人のフォローもうまい人 「明日からだなって思って見てました。明日から多くの人をお迎えする場所…俺、あ!私は…」 「いいよ。今はプライベートだから気にしないで」 「俺の実家は古い旅館です。それはそれは古くてお客様も次第に少なくなって…今はもう従業員も年配の人しかいません。明日にもなくなってしまいそうなくらい経営は悪化してます。でも従業員はみんなすごくすごく若々しく楽しそうにお客様をお迎えしてる…いつか俺もこんな人たちになりたいと思ってきました。ここでその基盤を作れたら…」 元から彼はあまり長くいられないと言う話だった。それでも採用した理由はこういうところにある。彼の旅館がまた活気が戻るその日を迎えるとき…ここでのことが役に立てばと思ったから 「それなら早く成長しないとね」 「わかっています。だからこそ、ここであなたのところで勉強したい。俺、実はホテルを泊まり歩いていたことがあるんです。でもやっぱりここの系列がダントツで凄かった。経営者は聞けばとても若い人だと言うこと。若くてもできることはたくさんあるんだなって。どんなことしてるのか盗みたいなって…そう思った。こんな思いのままではだめかなっても思ったんです。けど採用してもらえた。だったら俺のすることは一つだけ。お客さんのためになりたい。役に立つ人になりたい。これからの未来の人たちのために」 彼の目はしっかりと未来を見据えてた。きっと彼の成長を見られるのはそう遠くない未来になるのだろう

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