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万里side 日本から俺と同じ仕事をする人が来ることになった。相手とはまだ会ったことはない。 戸籍上では義兄弟になっている同い年の千里くんという人なのだけれど…お互い忙しすぎてなかなか予定が合わず顔を見るのは初めて… 「万里!」 そう呼ばれたときなんだか懐かしいようなそんな気がしたけど… 父の話によると俺と彼は高校時代から大学まで一緒に過ごしていたらしい。 申し訳ないが全く覚えていない。俺には高校から大学。そして就職して一旦帰国して日本のホテルの立ち上げをした時までの記憶がスッポリと抜け落ちてるんだ 覚えていないことが沢山で怖くてパニックになる俺をずっとキャロルは支え続けてくれていた。 俺よりも年下で、でもとてもしっかりしている美人だ。 彼女に告白されたときは驚いたけれど彼女と共に生きるのは幸せだろう。そう思いOKした。 千里くんの父親と俺の父親が結婚していたことも俺には寝耳に水のことだった。 父は勝手に何でもする人ではないのでおそらく俺もそれを了承したのだろうけど…記憶のない俺には驚くことしかできないのだ 千里くんの父親を初めてみたとき既視感に襲われたけどそれがなんでかわかんなくて気持ち悪かった。 そして今日初めてそれが何かわかった。千里くんと同級生ってことを失った記憶の奥底では覚えていたからだろう。史澗さんと千里くんは瓜二つ。だからどこかに千里くんの姿を見ていたんだ 史澗さんも千里くんもとても美人だ。男に使う言葉ではないのだろうけどその言葉が良く似合う人たちなのだ ほんのり頬を染めた千里くんに目を奪われて息を飲むとそっと袖を引く小さな手があって我に返った。 俺には愛する彼女がいるのだ。ゲイを嫌う彼女に彼に見惚れてたなんて悟られてはいけない それから一緒に仕事をして行く中でわかったことは彼はとても仕事が良くできると言うこと。 日本でトップを争うホテルの支配人としてやって来たと言うことをまざまざと見せつけられる。 ある日の長い移動の時何の話をしたらいいものかと考えた 移動中は基本的に眠って過ごすのだがこの時間がとても勿体ないように思えて千里くんいるときは彼と多く話していたくて。そんなときふと思い出したことを聞いた。 彼に恋人はいないのか?ということ。もし仮に恋人がいたとしてそれが男だったら? 俺はキャロルのためにも彼と距離を置かなくてはならないのかもしれない。ただでさえもう両親には会いたくないといっている。ここで彼がゲイだとすれば嫌悪感は増して千里くんにきつく当たるだろう。 そうならないために俺は策を練らねばならない。 彼との時間がとても心地良いので彼女に否定されたくない。 その時は気がつかなかったがどこか矛盾しているような俺の思い。 いつの間にか俺の中での優先順位はキャロルより千里くんが上になっていたんだ

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