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万里side 「ねぇ。千里くん」 「はい」 「君は恋人はいないの?」 「えぇ。いませんね。」 いないのか…どこかほっとした自分に疑問を持つ。 「もしかして…君もゲイかい?史澗さんもだし」 「いいえ。父も元は違いますよ。実際俺の産みの母親のこと愛していたし」 「…そう。ならよかった」 「え?」 何がよかったのだろう…自分で言っててよくわからない 「キャロルがね。ゲイが嫌いなんだよ。気持ち悪いんだって。父に会ってもらって、史澗さんと夫夫だって伝えたとき散々だったんだ。もう二度と俺の両親には会いたくないって。俺はね愛し合ってるならそれが男同士だろうがいいって思ってるんだけどね。ほら。愛する人が嫌ならね?わかる?」 違う…これじゃない…自分でキャロルの話をしながらもやもやと何かが俺の本音を隠した 「…」 「だからね、君が俺の義理の弟って知ったとき君までそうじゃないかって気味悪がったんだよね。ゲイじゃなくてよかったよ」 「はは…」 泣きそうな顔に見える千里くんの表情に不安になる 「千里くん?どうしたんだい?」 ねぇ…泣かないで…すぐに彼を抱き締めて腕の中に閉じ込めてしまいたい…その薄い唇に口付けて…そのまま… 「いえ。東雲さん」 邪な感情を千里くんの綺麗な声が打ち消した。今…俺は何を考えた…自分のことなのにわからない 「ん?」 「父と垓さんのこと反対ですか?」 「…ううん。そう言う訳じゃないって言ってるでしょ?父は尊敬する人だし史澗さんだって素晴らしい人ってことわかるよ。何?やっぱりゲイなの?君」 嫌だ…他の男には取られたくない… 「…学生時代は女性と交際していましたし結婚していたこともあります。だから本当は違うんだと思います。…でも…愛した人はただ一人…その人は男性でした」 どこの誰?何だか…すごく嫌だ…他の男になんか…やらない… 「へぇ…そうなんだ?」 イライラしてしまって声が固くなる。 「気持ち悪いですか?思い続けるって」 幸い俺の声が固くなっていたのは彼には気づかれなかったようだ…何事もなかったかのように一旦息をついて更に問いかけた 「今もその人を愛しているのかい?」 …違うといって欲しい…俺を…好きに…!! …っ…俺は…今…何を… 自分の感情の起伏が気持ち悪い。 俺はゲイではないし彼はビジネスパートナー…まぁ義兄弟でもあるけどそれ以上でもそれ以下でもないはずだ…でも…何で?…わからない…失った記憶のどこかに何かあるのだろうか… 「えぇ。でももう彼は新たな人と人生を歩もうとしている。だからその幸せを願うだけです。辛くないと言えば嘘になりますけど俺も散々その人を苦しめてきたのでその報いを受けるんだろうと思っています」 あぁ…そんなにも苦しそうな顔を…そんなにも彼を愛している…何て羨ましい…俺も…愛されたい… 「そうか。君にそんなに愛される人…きっと素敵な人なんだろうね。」 「えぇ。本当に…素敵な人ですよ…」 「そうかい…」 そいつを想っていることは嫌でも伝わってきてもうそれ以上は話さずその後もそんな類いの話しはしなかった。 記憶なんて戻らなくていいと思ってた。 失くしたということはきっとそこには特別に何かあったわけではなかったからだって思ってた。 覚えてなくても仕事は問題なくできたし生活だって普通にできていた。それに失くしたからキャロルと出会えたしもうすぐ結婚だってする でもその頃から結婚に何故か迷いを覚えた俺はキャロルとの結婚を先伸ばしにし続けた。

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