83 / 130

5

「もしもし」 『千里。』 「久し振り。一」 『どした?』 「万里とね付き合うことになった」 『そうなのか?あいつ思い出したの?』 「ううん。思い出してはないけど…それでも俺を好きだって言ってくれたから」 『彼女は?』 「別れたみたいだよ」 『そうなんだ。』 「でね、一たちに会いたがってるんだけど…記憶ないままでもいいならって…」 『もっしもーし!千里ぃ!!』 「百?」 『うんっ!万里と来るの?』 「うん。でも…記憶はないままだよ」 『…そっかぁ…うん…わかった。俺も会いたい。一いいでしょ?『かまわないよ』』 「また予定決まったら連絡するから」 『うん…待ってる』 『パパぁ…』 後ろで小さな子供の声が聞こえた。 二人には数年前に一人息子の溝芽くんが生まれた。百にそっくりだけど一に似て賢くてしっかりした子だ。 一は自分の子供なのに百に抱かれる溝芽くんに嫉妬してたっけ。 それでも溝芽くんが小さな手を一杯に伸ばしたら優しい笑顔になって抱っこしてた。 二人の睦まじい姿を見て癒されたものだった。 実は俺はまだ向こうで仕事をしていたときストーカー被害にあっていたことがある。 万里が怪我をして生死をさ迷っていると聞いて ご飯も喉を通らなくなって日々窶れていった。見た目はあまり良くなかったはずなのに却ってその姿を気に入る変な輩が現れたのだ。 取引先の社員だったのだが始めは偶然近くのスーパーで出会してそれから頻繁に偶然が続いた。人懐っこい笑顔。話しやすい雰囲気。一緒にいるときの居心地も良くて一緒に食事をしたこともあった。 それがどんどんおかしな方へ向かっていった。帰宅時に従業員入り口に待っていたりするようになった。俺が日勤だろうが夜勤だろうがどんな勤務についていても必ず時間通りに現れた。 それが毎日ともなると気味が悪くなった。だからやめるように伝え一度は収まったかと思ったのだが…それから家の場所を知られ家の前にいるようになった。俺は教えていないから俺の後でもつけたのかもしれない。 他にも無数の不在着信やメールなどもあった。ポストには大量の手紙と写真。手紙と写真には卑猥なものも含まれていた。 何かの写真とコラージュされた俺と彼の絡んでいる姿もそうだけど彼のイチモツがギチギチになっている物だったり白濁をこぼしているものだったりその白濁をコラージュした俺の裸の写真にかけているのを見せつけるものだったり…他にも色々あったけどもう思い出したくもない。 ついに彼は俺を家に連れ込んで無理矢理犯そうともした 「ねぇ。千里。俺のこと好きなんでしょ?」 「悪いけど俺には好きな人がいるから」 「だから、それは俺でしょ?」 「違うよ。悪いけど君は友人としか見れない。今は友人とも思えない」 そう伝えると彼は逆上して俺の服を引き裂き馬乗りになった。必死の抵抗をするけれど体力の落ちた俺と普段から力仕事をしている彼とは力の差は歴然で…もうだめだと思ったとき一が助けてくれた その日は俺が被害にあっていることを知っていた一が無理矢理連れ去られるのを見つけてくれて助けてくれた。 「ごめん!千里。触られる前に助けられなくて」 服をはだけさせられた俺に馬乗りになった男と俺の必死の抵抗が動画には納められてた。 「証拠とらないとなかったものにされるから…ごめんな」 その動画が証拠となり男は捕まった。 更に窶れた俺を一は家に招いてくれて暫く二人の家に住まわせてくれた。父たちにはこの事は言えなかった。 男はかなり感じの良いやつだったので待ち伏せしていたとしても他のスタッフたちはそれがストーカーなんて思っていなくて俺の仲の良い友人か恋人か何かだと思っていたのか垓さんに報告する人はいなかった。だからおそらく知られていないはずだ。 疲れ果てた俺を癒してくれたのが2人と溝芽くんだったのだ。 そうして漸く元に戻れたときに万里が目覚めたと聞いた。ただ、俺たちの記憶はなくなって…そして程なくして万里に彼女ができた。 記憶のことや彼女のことは残念だけどでも目覚めてくれたことが嬉しかったからそれで良いと思った。 百が俺の代わりに怒り、泣いてくれたからスッキリしたのだ。 だから二人には一番に会いに行きたい… 万里には俺の身に何があったのかを言うつもりはないけれど二人には会って欲しい。2人がいたから今こうして隣にいられることになったのだから 「万里」 「ん。」 「二人も会いたいって」 「よかったぁ…」 「二人には一番に会いに行きたい。いい?」 「うん。勿論だよ」

ともだちにシェアしよう!