99 / 130

第98話

「溝芽くん。ご飯できたよぉ」 一の言葉は俺には痛いほどわかる。けど本当に後悔した。もっと会話があれば辛い幼少期を過ごさなくて良かったんじゃないかって。 きっと父はまだ幼い俺を育てるために必死で働いて気の休まる場所はなくてあんなに怖い顔をしてたんだって思う まだ母親が恋しいときに母を亡くした俺はすごくわがままだったと思うし酷い言葉も浴びせたんじゃないかなって 「…まり…ちゃん」 「うん。おはよ。ご飯出来たんだって。溝芽くんの大好きなパパのご飯だよ」 「父さんいるからやだ」 「どうして?」 「だって父さんパパを独り占めするもん…」 「溝芽くんもお父さんもパパが大好きなんだね。素敵なことじゃない。ねぇ。溝芽くん。父さんがパパを大嫌いになってパパとお話しなくなったら父さんのこと好きになる?」 「…やだ…」 「そうかぁ…。パパはね、父さんも溝芽くんもとーっても大好きなんだって。だから大好きな二人が仲良くしてくれたらもーっと嬉しいんじゃないかな?俺もね自分の父さんが大嫌いでご飯一緒に食べなかったんだけど…大きくなってもっと一緒に食べればよかったなって思ったんだ。父さんはパパのこと大好きだからついつい溝芽くんが羨ましくなって意地悪しちゃうんだよ。意地悪したら俺がえいってしてあげるからね?一緒にいこ」 「…まりちゃん…抱っこしてくれたら…行く…」 「いいよ。おいで」 そっと手を伸ばししゃがむとギュッと抱きついてくれた 「ねぇ。まりちゃん」 「ん?」 「僕頑張るからおまじないして」 「おまじない?」 「うん!ちゅーして!!」 「いいよ」 そう言ってそっと頬にキスすると溝芽くんは不服そう…口を尖らせてそうじゃないと駄々をこねる。困っていると唇にちゅっとされた。 「へへっ!まりちゃんの唇奪っちゃった」 「溝芽くんったら」 「何?もっとちゅ~してほしいの?」 …だから…なんなの…その年でその色気…末恐ろしい…ふふっと微笑んだ顔がとっても大人びててなんだかドキッとしてしまう 「まりちゃん?照れてる?」 「そうだね。けど俺はせんちゃんのだからね!」 「知ってるよ。だから秘密ね。ウワキになっちゃう」 今どきの子供はみんなこんななのかな…そう思うと俺は可愛いもんだったなぁなんて思いながら溝芽くんを抱き抱えてリビングへ戻った 「お!溝芽も一緒に食べるのか!!」 百が満面の笑みで溝芽くんを迎えると照れたように俯く 「パパ」 「ん?」 「父さん嫌だって言ってごめんね…」 「溝芽ー!!」 百が喜んで俺ごと溝芽くんを抱きしめると嬉しそうに笑った

ともだちにシェアしよう!