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史澗side
実は俺は両親と兄弟とは血は繋がっていない。
本当の両親は知らない。
俺の両親は俺がまだ生まれたばかりの頃死んでしまった。
俺の父親は大きな会社の御曹司だったらしい。将来が約束された人で婚約者もいた。
そんな父の会社で清掃員として働いていた母親と恋に落ち駆け落ちして一緒になった。
田舎に逃げ込んで身を潜めながら細々と生活をしていたそうだ。
それから数年、俺を妊娠した両親はとても喜んで2人で俺と会える日を楽しみにしていたそうだ。
俺が生まれて数日その日は突然やってきた。
父親に…俺の祖父に見つかってしまった。
だけど意外なことに祖父は俺を見るととても喜んで恐る恐るだが抱っこしてくれたそうだ。
父の決断を反対したことを後悔する言葉が投げかけられたのだ。
その時ことがもう古くなってしまった父親の日記帳に詳しく書いてあった。俺を抱く俺に良く似た祖父とその隣に幸せそうに微笑む両親の写真も一緒に保管されていた
「あの家に気をつけろ…安全な場所を用意するから」
その言葉を聞き警戒していた両親は慣れ親しんだ土地を後にする決断をした。
祖父が用意してくれた安全な場所へ移動していたその時見知らぬ車に衝突された。そしてそのまま崖の下へ落ちていった。
直ぐに捜索され見つかったが両親は既に息はなく…そんな中俺だけがまだ辛うじて命をつないでいた。
その事故を引き起こしたのが父の婚約者だった女の家の奴らの仕業だったのだ
父は顔もよく人柄もよく本当に非の打ち所のない人だったからそれはそれは人気があったそうだ。当の本人は全く自分のことには無沈着だったみたいだけど。婚約者だった人は父の幼馴染でもあり幼い頃から父だけを思い見つめてきた。
そんな父が結婚も間近に迫ったある時急に現れた女に掻っ攫われたのが彼女の一途な思いを傷つけ歪めてしまった。
娘を可哀想に思った親はいろんな力と金を使いどうにか娘と俺の父を一緒にしてやりたかった。
あの事故は母親と俺を殺すためのものだったがそう都合よく行くはずはなかったのだ
保護された俺は祖父が引き取るという話もあったようだがまだ生まれたての俺に重責は負わせられない。そう思った祖父は今の両親である父が心を許し会社とは全く無関係で誰よりも信頼していた夫婦に俺を預けた。
それから間もなく祖父も亡くなってしまいその後後継もいない企業を立て直せるものもいなかった。そんなとき現れたのが東雲。垓くんのお祖父さんだ。垓くんのお祖父さんとは幼なじみだったそうだ
垓くんのお祖父さんの手腕は本当に見事であっという間に会社を立て直しさらに大企業にした。
その話を知ったのは本当に最近のことだった。
垓くんと出会った時には知らなかったのだ。
それを知ったのは東雲の子と仲良くなったんだって久しぶりに帰ってきていた兄に話したとき。あの古い日記と東雲のことそして両親のことを話してくれた。
「東雲は大きな会社だけど元はお前の会社であると言っても過言ではない。だけどお前はあの企業に興味ある?」
「ないよ。知ってるでしょ?俺は研究をしたいって。世の中の困ってる人たちのために」
「そうだな。今東雲にいる人間はお前が先代の孫だと知っているものはいないはずだ。けどもしどこかでそれが知られたときお前はきっと悩むことになる。大好きな垓くんと争わないとならなくなるときがあるかもしれない。そのためにこれからどうするのか?それはお前が決めることだ。何かあれば話を聞く。お前の役に立ちたい。何よりも大切な弟なんだから」
兄はそう言うとぎゅっと俺を抱きしめた。
「忘れるな。俺たち家族はお前が大切なんだ」
「うん」
兄はそれから俺の作った料理を食べるとまた仕事に戻っていった。
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