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唯一本当の僕を知っている人物が学内には一人だけいた。
篠田さんだ。
初めて出会った日、会長をコケにした彼女にだけは素の自分のままでいられた。一緒にいてとても楽だった。
「東雲くん。いつまでそんな事続けるの?」
「うーん。結婚するまでかな。どうせ大学を出たら親の決められた相手と結婚することになるし一応家族になるんだからちゃんと尽くすつもりではいるよ。不誠実な真似はしないつもり。とはいっても…本気で愛してあげることは絶対にできないだろうけどね。僕には史澗くんだけだから」
「…そう。」
それ以上は何も言わずただ静かに僕の側にいてくれた。
一緒にいることも多かったので僕たちの仲を疑う人ばかりだった
「でもさぁ篠田さんモテるじゃん?僕といるのが一番長いからかあらぬ噂あるけど平気なの?」
「今さら?君のお陰で誰も寄っては来ないわよ。諦めてる」
「それはなんかごめんね。」
「別に気にしてないよ。だって結局東雲くんといるときが一番私のままでいられるもの」
そんな彼女とは大学も同じだった。
友人関係はそのまま続いて大学も一緒に卒業し僕は親に決められた相手と結婚することになった。
「本当に僕でいい?」
「いいも何も親に決められたことだもの。拒否権なんてないわよ。まぁでも私としてはラッキーよ。あの東雲の見目麗しい品行方正な垓くんと夫婦になれるんだから。」
「篠田さん」
そう。相手は篠田さん。篠田さんは父が目をかけている小さな企業の一人娘だったのだ。
他にも候補はいたけれどその中に篠田さんがいるのを知って迷わず彼女にきめた。
「垓くんこそ。いいの?他のご令嬢方の方が君や、東雲にはプラスになったはずなのに」
「だって他の人達は僕の素なんて知らないし一緒に過ごす中で四六時中理想の東雲垓を演じるなんてしんどいじゃん?だったら全てを知ってる篠田さんがいいに決まってる。ごめんね。前も言ったみたいに僕はきっと君を史澗くんみたいに愛することはできない」
「別にいいよ。そんなとこも含めて私はずっと君を思い続けたんだから。私は久遠寺さんに感謝だわ。東雲くんをボロボロにしてくれてありがとうってね。」
「うわぁ。怖いなぁ」
「だって久遠寺さんがあなたのことを諦めてくれたからこうして出会った頃から思っていた相手と結婚できるんだよ?幸せ以外の何ものでもないわ」
「そんなに前から?」
「そうよ。あの日一緒に帰ろうって誘ったときにはもう好きだったんだから。言ったでしょ?あなたの存在はずっと知ってたって」
「こわぁ…」
「でも、もうサインしちゃったから。諦めて?」
「そだねぇ。まぁよろしくね。奥さん」
「えぇ。よろしくね。旦那さま」
それから意外にも穏やかにゆっくりと僕たちは結婚生活を楽しんでいた。そして入籍して間もなく僕たちの家族が増えた
「よろしくねぇ。万里くん。出産お疲れ様。ありがとうね。本当…ありがと」
息子の万里は僕に良く似てた。
「もう!泣かないでよぉ。頼りないなぁ。でもほんと垓くんにそっくり。良かったわ。」
「何で?君に似ても絶対キレイじゃん」
「まぁ。そうだけど」
「そこは謙遜しないんだ」
「しないわよ!私そういうの無理」
史澗くんに対する思いとはまた違うけど彼女のことを愛してる。本当に本当に幸せだったんだ。生まれたばかりの万里を抱く篠田さんにキスをして後ろから二人一緒に抱きしめた。
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