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史澗side
その時は突然訪れた。
「久しぶりだね。史澗くん」
「お久しぶりです。東雲さん」
垓くんの父親の急な呼び出しで東雲家縁の小料理屋に連れてこられた。
俺たちが通されたのは離れだった
お店に、あらかじめ注文されていた食事が既に用意してあってそれを食べながら談笑していた。
食事も終わりそろそろ解放されるかな?って思ったとき襖が空いた。そこから現れたのは垓くんのお祖父様。
「久遠寺くん。初めまして」
歳を重ねてもなお美しい紳士だった。
「…初めまして」
一気に緊張感が高まった
「今日は…父から君に話があるということで呼んだんだ」
「…はい」
「本当に…あいつの若い頃にそっくりだな」
「…」
「垓と交際しているのだろう?…単刀直入に言わせてもらうよ…垓と別れてくれ」
「えっ」
それは思いもしなかった言葉だった。いつからこの人たちは俺たちが友人の枠を超えた関係だと知ったのだろう…知っていたのならどうして今日までそのままにしてくれたんだろう…その気持ちを察したようにお祖父様は話し始めた
「君たちが特別な仲なのは1年ほど前に知っていた。私たちはそういったものに偏見はない。何より垓が幸せでいてくれるのならばそれでいいと思っていた。だが…状況が変わってしまった。保管されていた昔の写真の中に君に良く似た奴を見つけた愚か者がいるんだ。その愚か者が君を担ぎ上げようとしている。これまで一切経営に携わってこなかった君を利用して東雲の乗っ取りを考えているようだ…」
そんなのぽっと出の人間があの大きな会社を動かせるはずもないのに本当に愚かなことだ…だけど…
「…私は…君があいつの孫ってことも東雲には興味が全くないことも知っていた。…だけどこいつはそのことは知らなかったんだ。…だが…」
垓くんのお父さんに視線を向けて俯いた
「…私が…アイツらよりも先に君のことを知っていれば…他に手はあったのだろうけれど…申し訳ない…私が不甲斐ないばかりに…」
「それでだ…全くうちに興味のない君の知らないところで…垓の命を狙うものが現れ始めてしまったんだ」
「えっ!?」
「まぁ垓は東雲の者が守りきれると確信しているからそこは問題ではないのだが…垓が狙われているってことは…また逆も全くないとは言い切れないんだ。そして、これ以上君と垓が親密になって行けば行くほど君が垓にとって大きな弱点となる。君の命が狙われなかったとしても…垓の方はそうはいかないんだ。垓は君を愛しすぎている。君に何かあれば自分の命など顧みず向かっていってしまう…そうなると…」
…話はわかった。垓くんを守るためには俺が身を引くしかないんだ…俺にそれをすべて退ける力はない…それが紛うことなき真実で
「…もう少し…時間をいただけますか?ほんの少しでいいんです…色々と僕の方も準備がいるので…もう少し…垓くんの側にいさせてください…」
「本当にすまない…あいつに…約束したのに…君のことも守る…と…それなのに…」
垓くんと似たような容姿で俯き静かに涙するお祖父様を静かにみつめた。
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