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そんなある日哀しい知らせが俺の元に入った。史澗くんの奥さんが病に倒れ息を引き取ってしまったのだ…
「…史澗くんの奥さんが…亡くなった…」
それを妻に伝えると彼女は涙を流した。
「そんな…穣くんから…色々聞いていたのに…垓。葬儀…行ってきたら?」
彼女に背中を押され葬儀に参列することになった。
そこには背筋をピンと伸ばした大人になった史澗くんが真っ直ぐ前を見据え立っていた。千里くんは隣で良くわからないのかキョロキョロと辺りを見渡していた。
そんな千里くんが俺に近づく
「…こんにちは。お兄さん可愛いねぇ」
…千里くんと、目線を合わせる
「こんにちは。僕は垓といいます。君は?」
「千里!久遠寺千里!」
無邪気な笑顔がこれから先事実を理解した時失われない事を願った。
「…」
「千里!」
「はぁい。」
「…久しぶりだな。垓」
千里くんを呼びに来たのは穣くんだった。
「…千里。穣くんと、あっちであそぼっか。垓くんはパパの友達なんだ。お話があるみたいだよ」
「うん!わかった。ばいばぁい!垓くん」
「垓…史澗の傍に行ってやってくれないか?今奥の控え室にいるから…俺じゃだめだ…お前じゃないと…」
「わかりました」
穣くんに促されその場所へ向かう。
史澗くんはやっぱり真っ直ぐ前を見据えていた。
「史澗くん」
呼びかけると覇気のない瞳でこちらを見た史澗くんのあまりの美しさに息を呑んだ
「…垓くん。久しぶりだね。元気にしてた?」
微笑みを浮かべたまま首を傾げながら問う姿が史澗くんはきっと…
「史澗くん…」
「…垓くん。俺さ酷い人間なのかな?一滴も涙が出ないんだ…」
哀しすぎて涙が出ないんだ…自嘲気味に笑みを深めた史澗くんが歩み寄ってきた
「…史澗くんは酷い人じゃない…それは僕が一番知ってる…」
「そっかぁ…酷くないのかぁ…。ねえ。垓くん。俺の代わりに泣いてくれる?」
そう言われて必死に我慢してた涙がボロボロ溢れた
「史澗くん…」
僕は史澗くんをぎゅっと抱きしめて子供みたいにわんわん泣いた。これじゃどっちが慰めてるのかわからない
もうこれ以上涙は出ないっていうくらい泣いて泣いて…やっと引っ込めた酷い顔で史澗くんを見つめる
「…垓くん…ありがと…」
史澗くんは優しく微笑みながら昔みたいに頭を撫でた。
「…もうそろそろ時間だね。今日は忙しいのに来てくれて…代わりに泣いてくれてありがとうね…気をつけて帰ってよ?」
「うん」
ここを出たら俺はもう泣かない。俺は東雲。東雲垓なんだから…
「車…出して…」
「垓さま…これで…冷やしてください」
「うん。ありがとう」
「この後は戻り次第会議がありその後会食…そして…」
秘書が淡々と今後のスケジュールをつらつらと並べているのをぼんやり聞いていた。
ねぇ。史澗くん。いつかまた俺が貴方のそばにいられる時が来たら…もっと頼ってくれますか?
そんなことを思っていた。
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