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史澗side あれから数年がたった。 「ふふっ。なんか色々あったねぇ」 膨らみ始めたお腹を優しく撫でながらアゲハさんが微笑んだ。それをぎゅっと抱きしめる。 「そうだねぇ。だけど東雲に感謝だな…史澗をここにこさせてくれたんだもん。史澗にとってはすごく辛かったことだけど私って性格悪いじゃん?だから垓くんと別れさせてくれてありがとーって感じだよ」 「あははっ!ほんと俺たち似たもの夫婦だね!この子がそんな性格にならないよう願うばかりだよ」 入籍して数年後アゲハさんは妊娠した。もちろん俺達の子供。俺しか知らないってのはなんだか照れくさくもあるけどそれも嬉しいなって思ってる。 「アゲハさん。愛してるよ」 「私も愛してる」 いつの間にか垓くんのことはいい思い出になっていて今俺が一番大切な人は彼女だ。これからも二人手を取り合って仲良く年老いていきなさたいなってこの頃はそう思っていた。 「史澗にそっくりな男の子だー!千里。これからも宜しくね」 俺たちに小さな小さな宝物が誕生した。なんの因果なのか垓くんのところの子供と同い年になった。垓くんのとこの息子さんは万里くん。 名前まで似てしまった。 「気が合うんだねぇ。やっぱり彼と」 「あはっ。そうだねぇ。ほらぁ。見て千里。万里くんだよぉ」 穣くんから送られてきた写真を千里に見せると千里は嬉しそうに笑いながらそっと手を伸ばした。 「ねぇ。史澗」 「ん?」 「将来さ。もしもよ?もしも千里が万里くんに恋をしたら…お付き合いしたらどうする?」 「うーん。そうだねぇ。、やっぱ親子だなって思うかなぁ。だけど反対はしないよ。もしそうなったら応援してあげたい。だけど…どうかなぁ?俺みたいに東雲から逃げ出さなきゃいいけどねぇ」 「そうだね。どっちにしても側でずっと支えてあげられるような親になりたいねぇ」 「うん」 愛する妻と子供の頬にキスしてまとめて抱きしめた。 「愛してるよ。ずーっと幸せでいようね」 三人で笑い過ごす。そんな時があっという間に過ぎ去っていくことなんて想像もしないままに… 「あーあ。ついてなぁい!!」 ある日のこと俺とアゲハさんは病院に来てた。最近体調が優れないアゲハさんを連れてきのだ。千里は兄に預けてきた。 「まさか私が…こんなになるなんて…」 アゲハさんに重い病気が見つかった。見つかったときにはすでに手遅れでなんの手の施しようもないことを宣告された。 「史澗と出会って、付き合って千里が生まれて…ぜーんぶ運を使い果たしちゃったのかなぁ。健康だけが取り柄だったのにな…」 俺は何も言えなくてただただ静かに涙を流す彼女を抱きしめた。 「ごめん…気付けずにごめんね」 「なぁに言ってんの?それは史澗のせいじゃないでしょ?私が早く行かなかったせい」 少し前から疲れやすくなっていたアゲハさんはそれでも俺や千里のためにたくさん頑張ってくれてた。疲れやすくなっていることに気付いていたから何度も病院に行くことを勧めてはいたのだが病院を嫌がるアゲハさんを見てたら無理に連れて行くことはできなかった 仕事から帰宅したら家で倒れている姿を見て急いで連れてきたのだった 「まだまだ千里の成長見たかった…史澗と一緒に年取っていきたかったな…ごめんね。叶えられそうになくて…」 その後医師から宣告された余命をとっくに過ぎて変わらず一緒に過ごせていたから病気はどこかに行っちゃったんじゃないかと思っていた。その矢先。 アゲハさんは逝ってしまった。幸せそうに眠る千里を抱き締めたまま…

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