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北川が次期代表になるのならば万里は本当に愛する人と一緒になってもいいとわかってはいたがそれでも婚約の話はなかったことにはしなかった。
だって万が一があったら困るでしょ?女性が恋愛対象とは言え千里くんは史澗くんに良く似てとても美人で気遣いができて優しい人だ。いつ万里が惹かれるかわからない。
千里くんとうまくいってしまったら親同士の関係だって出てくるはず。そうなったら史澗くんに会ってしまうでしょ?
本当にどこまでも自分勝手で自分自身が嫌になる。だけど僕はもう史澗くんに会ってはだめだから…
京華の遺影の見える部屋で交わったあの日の僕は本当に最低で…人間としておかしくて。だけど史澗くんを求めずにはいられなくて…
せめてもの贖罪がもう二度と史澗くんに会わないこと…そう思うから…
だけど…本当に運命って残酷で…大学生の万里は千里くんと恋人になってしまった。
それを知った時どうやって二人を離そうか考えて…その結果万里へ海外事業を任せることにした。
勿論すぐに万里が首を縦に振るはずなくて…
何も進まないまま時が過ぎていた。
このままにしてはいられない…そう思い僕は…私は…大金を持たせ千里くんとは会ったことのない信頼のおける重役に千里くんに会いにいってもらった。
別れるよう説得してもらうために
それから日もたたないうちに万里から連絡が来た。海外へ行く決断をしたと。そしてその日の内に向こうにたった。万里はすぐに復学し飛び級して卒業資格も得た。
とても複雑だった…向こうに行ってからの万里は休む間もなく精力的に仕事をしあれよあれよという間に成功を収めたのだ。喜び半分不安半分…なぜなら万里は夜な夜な違う人と交わっていたのだから…あの頃の僕のように…
それから暫くしてこちらの大学を卒業した婚約者、友里亜さんが秘書として入職し万里を支えるために万里の元へ飛び立った。友里亜さんが行ったことで万里の火遊びは終わった。
このまま何事もなく結婚すれば…
だけど…本当にそれでいい?そう悩んでいた時穣くんから息子の那由多くんの交際相手は友里亜さんだと聞かされた…
婚約者がいると分かっていても互いに惹かれてしまった…いつかは終わる交際だけどそれでも時間が許す限り一緒にいたいと…
これから先が長い彼女たちの人生を僕一人の贖罪という言葉で包み隠したわがままで潰していいのか…そんなこと許されるわけはない。
きっと京華も激怒するはずだ、だけど…
「社長」
「あ。北川。どうかしたか?」
「…万里様の件なのですが」
「うん。」
「…本当にこのままでいいのですか?」
「…」
「史澗さんに会うかもしれないと思うのならなぜ久遠寺千里さんを採用したのですか?その時点で貴方の言っていることはめちゃくちゃなんですよ。」
そうなのだ…友里亜さんと一緒に千里くんも入社していた。最終的な決断をしたのは他でもない僕だ。
千里くんは他の誰よりずば抜けていた。全てにおいて最高の人材だった。だから採用した…だけど…彼に史澗くんの面影を探したのも事実で…
仕事ぶりも素晴らしく彼がいたからというリピーターだって大勢いる。彼はすでに東雲にはなくてはならない人物になっていた。
仕事は順調で…だけどまだ僕は万里と友里亜さんの婚約をそのままにしていた。もたもたしていたら数年がたっていた…そんな時知らせが届いた。
千里くんが職場の女性と結婚したのだ。それに安堵してそこでやっと万里と友里亜さんの婚約の解消をした。
彼が結婚したならきっとまさかのことはないからって思って。
彼らは本当にお似合いで…だけど懸念もあった。だって彼女は万里にどことなく似ていたのだ…。
千里くんはまだ、万里のことを思っているのかもしれない…彼女を変わりにしているのかもしれない…そんな不安は的中するもので…それから数年後離婚してしまった。
それは万里が新しく展開するホテルのサポートのため一時帰国するタイミングだった。
なんというタイミングなのだろう…これではもう…だけど…反対ももうできないと悟ってしまった。腹をくくることに決めた。
もし2人がよりを戻したいのなら…反対はしないと…史澗くんとももう一度向き合ってみようと…
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