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「えー、それでは今年も有難うございました。来年もまたよろしくお願いします、乾杯!」
工場長の音頭で忘年会はスタートした。席は上座と言われるところに工場長や部長が集まりそれ以外は適当に正社員もパートも散り散りで仲が良い人たちで楽しむ。勿論、珠一の隣には。
「珠っちゃん!かんぱーい♪」
「井上、お前は広報部 やろぉが!主任がおらんでどげんすっつか!」
「ばってんもう関係ねぇやん。工場長も無礼講っち言 ーちょるし、ね?」
泰示は右手にビール瓶、左手は珠一の肩を抱く。テーブルの向かいには製造ラインで働くパートのおばちゃん達が並んでいて微笑ましく2人を見ていた。
「安東君っち今年28やっけ?」
「あー…はい」
25歳を過ぎた辺りから毎回恒例の話題のゴングが鳴り珠一は顔を引きつらせた。
「彼女くらいおらんの?28げなもう子が2人目3人目っち産まれよぉ歳ばい」
「そーよぉ、ウチん息子も25やけど3月に2人目て」
「あら、佐藤 さんトコもう孫何人目かい?」
「上ん子が3人でそん下も先月生まれたき、これで5人目て」
「あーあー、じーちゃんばーちゃんが頑張らなねぇ」
「あはははは」と笑うおばちゃん達の声が珠一の心にグサグサと刺さる。そんなおばちゃん達の賑わいを聞き付けた製造部の課長が焼酎の水割りセットを載せたお盆を持って割入ってきた。
「安東また言われよんのかー」
「課長、いい加減にして下さい。俺は理想の嫁さんが見つからんだけです」
「世の中晩婚げな言よるけどなぁ、こん辺で28は行き遅ればい。今日やって22ん中島 が嫁さんが来週予定日やきち仕事終わってすぐ嫁さん実家に行きよったばい」
「はぁ⁉︎」
中島とは珠一の直属の部下で顔も容姿も至って普通で少しぽっちゃりしているのでモテそうにないTHE人畜無害な男だ。
「中島っち結婚しちょったんスか⁉︎」
「あー、お前出張でおらんかったか。一昨日 にクリスマス授かり婚ち」
(お、俺が…中島ん、負け、た…?)
あまりのショックで珠一は開いた口が塞がらずパクパクしだした。そんな珠一を見て泰示は頬を膨らませる。泰示に気付かない課長は「ガハハ」と愉快そうに笑ってほぼロックの水割りを作ってグラスを珠一に持たせた。
「お前ん好いちょる二階堂ばい。どんどん呑みないや」
「クソがああああ!頂きます!」
珠一のやけ酒が始まった。
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