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珠一のやけ酒を面白がった男性社員達が集まり出して、泰示は珠一から引き剥がされて女性社員達に慰められていた。
「うぅ…珠っちゃん隣は俺ん席なんに…」
「まぁ安東君がはがいがる姿っち面白 ぃきな。井上君は何か飲まんの?」
「カシスオレンジかカルーアミルクっちあります?」
「ここはビールと焼酎しかねぇばい。あとは烏龍茶かオレンジジュースだけて」
泰示は甘いカクテルや缶酎ハイしか飲めなかった。だけど今日は悔しくなってしまい。
「芋!芋んロック呑む!」
「いやいや、井上君っち焼酎ダメやろ?烏龍茶かビールにしときないや」
「やだ!俺も珠っちゃんと同じモン飲む!」
そんな声を聞いた芋焼酎党の年配の上司が泰示の後ろにやってきた。
「井上ぇ、大好きな安東が取られたけんヤケ酒か?付き合 ぉちゃろか?」
「はい!」
女性社員達は部長に連れて行かれる泰示を不安そうに見届けたが「大丈夫やろ」と言い5秒で談笑を再開した。
一方、珠一のヤケ酒組は大盛り上がりだった。
「えー!安東君ん家っち持ち家なん⁉︎」
「家賃払うんが勿体ねぇき、買いました」
「でん独り暮らしやろ?」
「未来ん家族への、と・う・し!です!」
「実家は?同じ市内なんやろ?」
「実家は、もぉ、兄貴だん家族が一緒に住んじょるき、俺ん部屋は子供部屋になったんスよぉぉぉ!来月3人目!今度は女!うわぁああああん!」
「泣かんでよかろぉが、安東!飲め!涙出た分飲め!」
「はい!」
独身男がローンを組んで一軒家を購入したという涙無しでは聞けない事実を肴 に焼酎の瓶がどんどん空になっていく。
「大体やぞ!安東!お前は理想が高すぎなんてや!今時な、亭主関白についてく博多美人げな、夢も夢!顔か性格、どっちかを妥協せな、いつまで経ってん嫁は無理!」
「課長!俺は、そげん変な顔もしちょらんし、高卒やけどそこそこ収入はあるし、資格も持っちょるし、仕事は出来るし、家も持っちょるし、好条件な男やと思います!おばちゃんら!何で俺は、こん会社でんモテんのですか⁉︎」
良い感じにアルコールが入り常々抱えていた疑問をおばちゃん達にぶつけると、その声を聞いた人たちは一斉に爆笑する。
「無理無理!」
「あーあ、面白ぃ」
「笑わんで下さい!俺は真剣なんやき!」
「じゃ、じゃあ…何でか教えちやぁ…お前にはな、井上泰示っちゅー大型ん番犬がおるき女が寄らんのじゃ」
その真実に珠一は絶句し、口端から焼酎をたらりとだらしなく垂らした。目は白くなっている。
数分して気がつくと、怒りの感情が爆発し、勿論矛先は泰示だった。
「うらあああああ!井上えええええ!にしゃんせいで俺は婚期がどんどんどんどん遅ぉなっちょおってやあああああ!」
立ち上がって叫び、血眼で泰示を探す。すると泰示は芋派の部長とプレミアム焼酎と呼ばれる「魔王」を嗜んでいた。
怒りが沸騰しすぎた珠一は、あまりのショックに気絶してしまった。
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