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ヒュー…ッ
「寒 ぃ!」
珠一は寒風に当たって目が覚めた。いつの間にか外に出されてしまったのかなどと考えているが、妙に温もりも感じていた。そして少しの浮遊感。
「珠っちゃん、おはよ♪」
「んあ?…井上?なん…っ!」
「へへへ、珠っちゃんこつ初めておんぶしたっちゃけど、軽 ぃんやね」
数十秒で理解した。珠一は泰示におぶられていた。
「忘年会は?あれ?お前部長と魔王呑んじょってえらい腹立ってん…あれ?」
「酒強 ぃ珠っちゃんが倒るるき、連れち帰るか救急車呼ばなねっちなったんよ。やき俺が珠っちゃん家 に送るっち言 ーた」
「あ、そ…」
事の顛末を聞いて何となく納得したと同時に、いつも疎ましく思っている泰示にも流石に申し訳ない気持ちが珠一の中に芽生えた。
「ごめん、迷惑かけち…」
「どーいたしまして。あ、なら今日珠っちゃんチ泊まってよか?」
「は?」
泰示の突然のお強請 りに珠一は一瞬で酔いも醒めた。
「俺こげー珠っちゃんこつおぶっち歩きよるけど、本当 は限界…」
「普段焼酎飲まんやつが魔王げなよか酒飲むきバチが当たったってや」
「焼酎飲んだんバレたら家追い出さるーきさ…結愛 によぉねぇっち…」
泰示は実家暮らしで、その実家には3つ上の姉が旦那が2年の単身赴任の期間だけ出戻っていた。そうなると井上家は姪っ子の結愛(3歳)を中心に回っていたので泰示はただでさえ肩身が狭い思いをしていた。
そんな泰示には多少同情していた珠一だったが、それと自分の家…つまりテリトリーにこの煩わしい男を入れることは別問題であった。
「なして俺がお前を家に上げないけんの?無理」
「おーねーがーいーっちゃ!一晩だけやき!屋根あるならどこでんいいき!」
「ねぇねぇ」などと甘えた大声を出し始めて、ぽつぽつと歩いている通行人に笑われる。それが恥ずかしくなった珠一は諦めた。
「あーもーわかったっちゃ!泊めちやーき降ろせ!降ろさんなら泊めんばい!」
「やったー!珠っちゃん本当優しーな!」
泰示は無邪気な声を出して珠一を降ろした。珠一が「ったく」などと睨んで、泰示の何歩か前を歩き出す。その時に泰示がほくそ笑んだ事を、珠一は気づかなかった。
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