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第3話
あのあと階下で呼ぶ母の声をきっかけに、志童は気持ちを収めてくれたが……。
あれから4年。俺は東京にいることを言い訳に、一度もアイツに会っていない。
そりゃそうだ、あんなのトラウマになる。
今でもときどき脚の付け根に押しつけられたアイツの熱を思い出し、腹の奥がぎゅっとなる――。
「志童がどうしたって?」
電話越しに聞かされたその名前に、体がほんの少し熱くなる。
「ここんとこずっと発熱が続いとるようだ。体に棲む犬神の力が強まっとるな」
「そ、か」
心配は心配だが、この電話の相手は俺の爺さんだ。
爺さんは俺より力のある拝み屋で、爺さんに任せておけば何も問題ないはずだ。
「悪い、仕事中だからもう切る!」
電話の向こうにそう告げて、俺はスマートフォンを握ったまま印 を切った。
暗い雑木林の中、目の前には身の丈2メートルはある化け狸。
コイツに成仏してもらわないことには、今日の仕事は終われない。
『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!』
俺の放出した霊気が狸の妖気とぶつかり合い、激しい風を作った。
(よし、いける!)
狸の妖気を押し返したと思ったその時――。
「待て、まだ話は終わっとらん」
切れていなかったスマホから、爺さんの声が聞こえた。
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