7 / 19
第7話
犬神の力を散らすと、志童の熱とやわらかな気配が俺の中に流れ込んできた。
どうしてか胸の奥がじんじんと痛くなる。
(あんなことがなければ、俺ももう少しお前の力になれたのに……)
息をつき手を離すと、目を開けた志童と視線が合った。
「どうだ、少しは楽になったか?」
「んー、たぶん。でも……」
「……?」
「今、この辺がきゅうって痛くなった」
志童は切なげにまつげを揺らし、胸の辺りを指で押す。
それは犬神の影響とは違うやつだ。
なぜなら俺も、同じ痛みを感じてるから……。
目線より高い位置にある志童の頭をグリグリ撫でて、体を離す。
「そいつは問題ない。たぶん、すぐ収まる」
思春期特有の感情のもつれみたいなものなら、ほっといても時間が解決してくれるだろう。
でも分からない。俺たちはもう22だし、関係性が人とは少し違うから。
そんなことを思っていると、志童が気を取り直したように笑顔を作った。
「ところでさ、なんで天心は帰ってこないの? 学校卒業したら、あの家に戻ってくるもんだと思ってたのに」
「えっ!? それはだな……」
さすがに「お前がいるからだ」とは言いにくい。
が、もちろん理由はそれだけじゃない。
「田舎じゃ拝み屋の仕事を頼まれても、報酬が芋とか蜜柑とかだからな。そんなんじゃ食ってけねえ」
「その芋とか蜜柑とかを食えばいいじゃん!」
「いやだよ、うちも農家だし!」
実際のところ拝み屋はうちの裏家業で、主な収入源は親父たちがやっている農業だ。
ところが長い不景気でそっちの仕事もパッとせず、俺は田舎での未来をとっくの昔に諦めていた。
ともだちにシェアしよう!