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第13話

数日後――。 みそぎを済ませた志童の首の後ろに、俺は清めの霊符を書き込んでいた。 「待って天心、くすぐったい」 襟足を押さえ裸の背中をこちらに向けたまま、彼はかすかに肩を揺らす。 「いいから我慢しろって。あと、スミが乾くまで触るなよ」 筆を走らせながら、彼の厚みのある肩ときれいな背骨に目がいった。 (俺も集中しないとな……) 念を込め、筆先に意識を集中する。 今書いているのは悪霊払いの霊符で、取り憑いた犬神の妖力を徐々に弱めてくれるはずだ。 即効性はないものの、継続的な効果が見込める。 その間コイツの体にも影響はあるだろうが、そこは俺が様子を見ながらケアするしかないと考えていた。 「本当にこれで犬を追い出せるの?」 霊符を書き終えたところで、志童が半信半疑の顔で聞いてくる。 「ああ。お前に取り憑いたままだと犬神も弱っていくばかりだから、どこかで見切りをつけて出ていくと思う」 「そか……」 志童はなんとも言えない表情で俺を見上げた。 「……何?」 「んー……なんかさ、犬がいなくなると俺、天心に構ってもらえなくなっちゃうのかなって」 (志童……) 道具を片づけながら、俺もなんとも言えない気持ちになる。 「俺に4年もほっとかれたのに、今さら何言ってんだ……」 「それでも天心、少しは俺のこと思ってくれてたでしょ」 「なんで、そんなこと……」 ドキリとして、手にしていた筆を取り落としそうになってしまった。

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