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第16話
「天心……!」
気が付けば俺は、志童の腕の中にいた。
「なんで、志童がここにいる……」
「イヤな予感がして、天心を追ってきた。俺の天心を、狸なんかに触らせてたまるか!」
地面にひざを突き俺の上半身を支えながら、志童は化け狸を睨む。
(コイツにも狸が見えてるのか)
「天心、これ……犬の封印を解いてくれ!」
「えっ……」
「あの狸、かみ殺してやる!」
志童の体に、白い犬神の姿が重なって見える。
神々しい光に覆われた美しいその姿に、俺は息を呑んだ。
「けど、今になって霊符を消したりしたら……」
志童の体の中でのたうち回っているだろう犬神が、どんな行動に出るのか分からない。
押さえ込まれていた力が爆発して、手がつけられなくなることも考えられた。
「なんで迷ってる、俺は、天心のことを守りたい!」
俺を抱く志童の腕に力がこもった。
その間にも、大狸はムクムクと巨大化していって――。
「……志童、頼む!」
動かなくなった手の代わりに、唇を彼の首の後ろに押し当て霊符の力を打ち消す。
――いいんだな?
志童の中で、犬神がニヤリと笑った気がした。
――コイツの欲望は、常にお前に向けられている。
知ってる、でもいいんだ!
俺がコイツを拒む理由なんて、もうとっくになくなってる!
朦朧とする頭の中で、犬神と、俺自身が会話した。
(いいのかよ、俺、知らないからな……)
自分の判断に驚きながら、俺は途切れかけていた意識を手放した――。
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