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放課後ー2
9月も半ば。外はまだいくぶん明るかったが、人影のない校舎はどこか作り物めいて見えた。窓から見える中棟の廊下も、暗く翳っている。化学室で良かった。これが生物室なら、相当怖かったと思う。
コーヒーご馳走様でしたと口の中で呟いて、窓の鍵締めと火の元を確認し、灯りを消してから外に出てドアに鍵をかける。
まだ、校舎の中には電気のついている準備室がいくつもある。ヨの字型の校舎の連結部分は、校長室とか職員室とかの教職員専用棟だ。職員室は二階にある。化学準備室脇の階段を下りようかと思ったが、ひょっとしたらまだ美術準備室に山中が残ってるかもしれないと、設楽はそのまま階段を通過した。
やった。美術準備室のドアの隙間から、灯りが一筋漏れている。足音を殺してドアの前に寄る。
中から、人の気配がした。
そっと中を覗く。
山中の背中と、その右隣に高柳が見える。今日は、高柳は机に座らず、山中の右隣に立っていた。
左手を山中の左肩に回し、肩の上に覆い被さるようにして……。
「……え……?」
設楽には目の前の風景が、何を示しているのか分からなかった。頭が、理解を拒否している。
チュッと湿った音がして、高柳の頭が肩の上から離れた。
目の前に霞がかかっているようだ。視界がぼやけて、何が行われているのかよく分からない……。
「……高柳先生、冗談はやめろって……」
「うなじ、綺麗なのになんで隠してんの?」
「隠しとかないと高柳先生がいたずらするからだろ」
「いたずらって、こういうこと?」
高柳の指が、山中の首を上から下へと辿る。白衣の襟をそっと広げ、下に着ているTシャツの中に指先だけ入れて、鎖骨の辺りをさすっているらしい。その手が、そっと下に動いていく。
「山中先生」
「……なんだよ」
「乳首、勃った?」
「ぶっ殺す」
「あ、ごめん。このくらいじゃ勃たないか。……勃たせても良い?」
「だから、ぶっ殺す」
「心配しなくてもさっき大竹先生帰ったみたいだし、このフロアに残ってんのは俺らだけだよ」
「……そういう問題じゃない……」
北棟の3階には、視聴覚室、美術室、化学室がある。視聴覚室には、もちろん誰も常駐していない。だから、北棟3階に常駐する教師は山中と高柳と大竹の3人だけ。下校時間を一時間も過ぎているから、生徒は全て下校している筈だ。大竹が帰った後なら、確かに誰もいない筈だった。
まさか廊下に設楽がいるとは、2人共気づいていないだろう。
「山中先生、もっといたずらしても良い?」
「出禁にするぞ」
高柳の指が、山中の髪に差し込まれる。髪を上に梳かれて、うなじから、耳の後ろの辺りが露わになった。
うわっ……!
設楽の心臓が跳ね上がる。
いつも無造作に隠れている場所が目の前に晒されている。それだけで、何でこんなにエロいんだろう……!!
その耳朶を、高柳が唇の間に挟んだ。
「……っ」
山中が、小さく息を呑む。
「山中先生、飯喰って、帰ろうか。続きは俺の部屋で」
「……お前……」
「それとも、ここで?」
山中を見下ろす高柳の目が、雄のフェロモンだだ流しだ。
俺の先生に、そんなエロい顔すんなよ!!!
「1人で帰れ!」
「冗談でしょ」
高柳の手が山中の後頭部にかかり、抱きかかえるように上に向かせる。高柳が唇を落とそうとした瞬間、設楽はその場から走って逃げた。
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