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美術の授業
「まず、画用紙に上下2列のマスを引く。そしたら各列を10マスずつに分けて、計20マスのマス目を作る。上の段の左端が白、下の段の右端のマスを真っ黒く塗って、その間の18マスをグラデーションに塗ってけ。鉛筆は何を使っても良いぞ。分かってると思うが、Hはハード、Bはブラック、Fはファームで、数字がでかいほどHはハードに、Bはブラックになってく。FはHとHBの間だ。言っとくが、鉛筆変えだけでグラデが巧くいくと思ったら大間違いだから、まぁ、2時間試行錯誤してくれたまえ。以上説明終わり。作業に入ってください」
「は~い」
山中が説明をするのを、設楽はぼんやりと聞いていた。
昨日見たのは、夢じゃなかったんだろうか……。だって、先生いつもと全然変わらんいし……。あの後、2人で飯喰いに行ったのかな。その後高柳の家に行ったのかな。続き、ちゃんとしたのかな……。いや、しねぇだろ。先生死ねとか言ってたし!つうか、仮にだよ?もし仮に続きしたとして、どっちが上でどっちが下なのかな……。背は高柳の方が高いよな……。いやいやいや、エッチは背でするモンでもないぞ?先生細マッチョだし。背は高柳より低いけど、腕力とか体力とかは先生の方が絶対ありそう。そうだよ、先生カッコイイもん。絶対先生上だよな?……でも待てよ?あの時の高柳、メッチャ雄フェロ出してたぞ?いや!きっと先生の方がフェロモン出る!!先生の方が男の色気、ありまくりの筈だ!!
周りの連中が黙々と鉛筆を動かす中、設楽はマス目も引かずに1人悶々としていた。
「設楽」
「……」
「設楽」
「……」
「設楽!」
叫び声と共に、設楽の頭頂部にチョップがめり込んだ。
「いって!」
「お前、作業中に何考え事してんだ!手がお留守だぞ!」
「す、すいません!!」
チョップの主は、もちろん山中だ。設楽はさ~~っと顔色を変えて、慌てて画用紙のサイズを測り始めた。
「俺の説明ちゃんと聞いてた?」
「聞いて……た?かな?あれ?」
もう一発チョップが見舞われた。
「ひど……。同じとこ……」
「説明聞かなきゃ作業できないだろ!」
言うなり、山中は図工椅子を1つ引っ張ってきて設楽の隣りに座り、スケッチブックを開いた。
「だから、こうやって20分割のマス書くだろ?で、左上が白で、右下が真っ黒な。残りのマスはグラデになるように塗ってくの」
そう言いながら、山中は自分のスケッチブックにマス目を書き込み、右下を4Bの鉛筆で塗り込め始めた。定規も使わず引いた線は真っ直ぐで、何気なく分割するマス目は測ったように等間隔に並んでいた。少し目をすがめて、鉛筆の尻を咥えながら、山中は人差し指でマス目に指を走らせる。
山中が真面目に説明しているというのに、設楽は全くあさってのことを考えていた。
ほら見ろ、先生その顔すげぇ色気だよ。高柳なんかかなうもんか。
袖をまくった白衣から出ている二の腕が、堪らなくセクシーでクラクラした。
「白いマスから、この右下のマスの黒になるように、残り18マス塗り分けろ。鉛筆好きなの使って良いから」
「右下の黒マスは4Bで書くの?」
「好きなの使って良いって言ったろ」
山中は、しばらくそこで自分も一緒にマス目に色を付けていた。シャカシャカと、ためらいもなく鉛筆を進めていく横顔を、設楽はじっと見つめいてた。
「こら、俺がカッコイイからって見惚れるなよ。さっさと手を動かせ」
何気なく言った一言に、設楽は赤くなる。他意はないと分かってる。分かってるけど、なんで俺の考えてること分かっちゃったんだろう……。
見惚れていたのだ。山中が、あんまりにもカッコイイから。
何だよ先生、睫毛ビシバシじゃん。その髪きちんとセットしてみろよ。高柳なんかメじゃないくらいもてるんじゃねーの?
高柳……。
自分の心の呟きで昨日の2人を思い出すなんて、俺は馬鹿なのか……。
でも……。
さっき鉛筆を噛んでいた唇に、昨日高柳はキスしたんだろうか……。
ゾワリと、背中を何かが這い上がった。
それが、高柳に対する嫉妬なのか、山中に対する欲望なのか、設楽にもよく分からなかった。
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