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学食ー1
授業が終わると、話を聞いていなかった罰で、設楽は全員の作品を集めて準備室に運ぶように言いつけられた。
「ついでに次の授業の準備も手伝ってって」
「マジで?」
5、6時間目の2年の授業は陶芸らしく、準備室の床に置かれていた、粘土の入った大きな容器を山中と美術室に運び入れる。直径50cmくらいある、でかい蓋付のバケツだ。向かい合って、バケツの縁に手をかける。山中の顔が目の前にあって、設楽は頬が上気してるのを気づかれないよう、下を向いた。
だがそんなフワフワした気持ちは、「はい、せーの」という山中のかけ声と共に消え飛んだ。
「重っ!」
「そうなんだよ。こんなの1人で運んだら、腰いわしちゃうだろ」
準備室から美術室の黒板脇までのたった5m程度の距離が、メチャクチャ遠かった……。それでも「助かったよ、サンキュ」と笑う山中の笑顔は、設楽にとって何よりのご褒美だ。うっとりと見惚れていると、いきなり美術室のドアが開いた。
「山中先生~、お昼食べよ~」
高柳が、コンビニ袋をぶら下げて入ってきた。
「あ~、俺今日寝坊して昼飯買ってない。購買行ってくるから勝手に食ってて」
「じゃあ3人で学食行かねぇ?」
「3人?」
山中と設楽が、異口同音に口にした。
「そ。設楽、お前、今朝大竹先生が褒めてたぞ。あの人でも生徒褒めたりするんだな。俺びっくりしちゃったよ」
高柳の手が、設楽の頭をくしゃりと撫でた。
たっ!
高柳の手!
昨日、先生にセクハラ三昧だった手で、俺の頭撫でた!!!間接!?間接撫で撫で!?
設楽は高柳に嫉妬していることも忘れて、その手の感触にちょっとだけドキドキした。
「ん?どうした?」
「いや、頭撫でるとか……ガキじゃないんだから……」
「悪い悪い。溶解熱のレポート、よく書けてたってさ。お前ら部員が優秀だと、俺も鼻が高いわ」
「高柳は何一つ部に貢献してねぇだろ」
「ははは、俺がこんなだから、部員が伸び伸び良い子に育つのデス。で、一緒に学食行くだろ?レポートのご褒美に、デザート奢ってやるよ」
「じゃあお手伝いのご褒美に、俺は牛乳奢ってやる」
「マジで!?やった!」
3人で学食に行くと、珍しい取り合わせに生徒達が振り返った。マイペースなのか教師2人は気にしていないようだが、山中はともかく、高柳は人気者だ。女子が「良いなぁ、混ぜてぇ」と赤い顔を見せてくるから、なんだか設楽の方が面映ゆかった。そばにいたクラスメートからは「何?説教タイム?」と声をかけられて、曖昧に頷くしかなかったけれど。
「でも大竹先生に褒めてもらえたなんて、設楽結構やるなぁ」
山中がカツカレーとわかめうどんと豆腐サラダとコーヒー牛乳を、二回に分けて取りに行った。一瞬奢ってくれるのかと思ったが、どうやら山中が1人で食べるらしい。高柳がちらりと山中のトレイを覗き込んで「それで足りんの?」と訊いている。
「先生、そ、そんな食べるの?」
学食のカツカレーは、メガ盛りが売りだ。
「ん?燃費悪いんだよね、俺。何?分けて欲しい?しょうがないなぁ」
山中がカツを一切れ、設楽のハンバーグの皿に載せてくれた。
「替わりにそのハンバーグ、一口寄越せ」
「りょ、了解です」
慌ててハンバーグを一口分切り分ける。
手が、嬉しくて微かに震える。
……なんか、食い物交換するとか、デートみてぇ……。
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