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学食ー2

「でも設楽もなぁ、その化学にかける情熱を、美術にもう少し欲しいよなぁ」 「イヤ、俺の学生時代を振り返っても、美術は息抜きの時間だったぜ?どうせ設楽だって、書道は堅苦しいし、音楽は楽譜読めねぇから美術選択した、とか、その程度だろ?」  ……そ、その通りです……。  設楽が通う藤光学園は、中等部までは美術も音楽も普通に週1回履修するが、高等部になると美術・音楽・書道が「芸術専科」として一括りになり、どれか1つを1年の時に選択して、3年間それだけに専念する。  設楽は中学までは公立だったから知らないが、コマ数の少ない山中は、グランドを挟んで隣りに建っている中等部でも、1学年分の授業を受け持っているらしい。その話を聞いて設楽は「俺も中学から藤光入ってりゃ良かったな……」と、ほんのちょっぴり後悔した。 「まぁ、うち偏差値高いし、ここから美大受験する奴もそんなにいないもんなぁ。良いよなぁ、美術教師。気が楽で」 「失礼な!今年は2人も美大受けるんだぞ!」 「少なっ!」  2人の台詞に山中は憤慨したようだった。ちなみに、去年美大を受験した生徒は1人もいない。 「あ、そうだ、設楽」 「はい」  高柳がコンビニ袋から出した弁当をつつきながら、ちらりと設楽を見た。 「お前、昨日何時頃帰った?」 「え……」  昨日。  何時頃って……。  一瞬にして、高柳が山中の耳朶を口に挟んだ情景が甦る。小さく息を呑んだ山中の微かな喘ぎを思い出して、ぶっちゃけ家に帰るなり3回抜いたのは内緒だ。 「大竹先生がお前残して帰ったって言ってたからさ。あんま下校時刻大幅に破るなよ。そういうときは届けが必要なの知ってるだろ?」 「う……うん」 「でも居残ってレポート書いてたんだろ?大目に見ろてやんなよ、高柳先生」 「一応言っとかないと、顧問の俺が怒られちゃうからさ~」  挙動不審になりかけた設楽の様子に気づいていないのか、山中がかばってくれる。あの様子だと、チューは阻止したんだろうな。あのままもしチューされてたら、あんな風に高柳と普通には喋らないだろうし……。 「まぁ、あんまり遅くならないなら、まじめな活動大歓迎だけどさ。そういや学祭、駄菓子屋ばっかじゃなくて展示もやれって、部長の小早川に言っといて」  ちらりと腕時計に目をやって、高柳は弁当のからをまとめてコンビニ袋に突っ込んだ。山中もあれだけメガ盛りだったカツカレーを綺麗に片付け、今は丼に直接口を付けて、うどんの汁を飲み干しているところだ。設楽も慌てて定食をかき込もうとすると、山中が「体に悪いから、ゆっくり食え」と笑った。 「お前ら生徒と違って、教師は昼休みも授業の準備あるから忙しいんだよ。俺らもう行くわ。とにかく、小早川に展示やれって言っといて。来年の新入部員確保できそうな、楽しそうな実験ヨロシク」 「だから、お化け煙の実演?」 「あれ結構臭いだろ……。まぁ、カルメ焼きは毎年受け良いけどな」  立ち上がろうとした教師2人に、設楽が「牛乳とデザートは?奢ってくれんじゃなかったの?」と訊くと、高柳がふふんと笑った。 「忘れてた。また今度、ツケにしといて。今ここで俺らが奢ると、お前目立つよ?」  確かに、高柳と喋りたそうな女子が、しきりとこちらに注目している。教師に贔屓されてるとか、変な噂が立っても面倒だ。 「確信犯かよ?」 「はは、次につなげるテクニック?女の子に使って良いよ?」  そう笑って高柳は軽く手を振り、山中と連れ立って学食から出て行った。
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