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夜の廊下

「山中先生、何作ってんの?昨日まで作ってたのとは違うじゃん。格好良いね、それ」  高柳はいつも通り山中のすぐ右隣で、机に座って山中を見下ろしていた。山中はカチャカチャと音を立て、相変わらず何かを作っている。 「スチームパンクのアクセサリー。笹原先生が、友達の店から注文取ってきた。つうか、何で俺が……」 「それ、家で作れないの?」  つまらなそうに、高柳が伸びをした。だが、山中の顔は相変わらず下を向いていて、作業を中断しそうな気配はない。 「家はグループ展の作品に占められています。細かい作業の道具はみんなここに置いてあるから、家ではやらないね」 「早く終わらせろよ。待ってるんだから」 「じゃあ笹原先生に、勝手に注文取ってくるなって言ってくれよ。俺があいつに逆らうと、兄貴から電話来んだよ」 「はは、章嗣さん?相変わらずだね」 「笹原先生はドSだし、元々俺は兄貴には頭上がらないし。どうしろってんだよ、俺可哀相じゃん」 「まぁ、章嗣さんに逆らうのは俺でも無理だよ。……それよりさ」  口調の柔らかさに反して、強い勢いで高柳が山中の右腕を掴んだ。持っていたドライバーが、音を立てて床に落ちる。 「ちょ、高柳先生!?」 「ドSっていうなら、俺も相当だと思うけど?」 「自分で言うなっ!」  そのまま、高柳の腕が山中の肩を抱き寄せた。嫌がって身を捩る山中の顎を空いた右手でがっちりと押さえ、強引に唇を奪う。 「んっ!……やめ……っ!」  何度か角度を変え、クチュクチュと湿った音を立ててキスするのを、設楽は呆然と見つめていた。長い口づけの後、山中が口元の唾液を拳で乱暴に拭い、高柳を睨む。だがその潤んだ目元は朱く色づいていて、設楽の下半身を直撃した。  しかし下半身を直撃されたのは、設楽だけではなかったようだ。 「このまま、しようか?」  高柳の声が情欲に掠れている。耳元に唇を寄せ、そっと舌で耳孔をくすぐると、山中はブルリと背を震わせた。 「高柳っ!いい加減にしろよ!」 「後10秒で終わらせろ。でないとマジでここでする」 「高柳!」 「い~ち、に~い、さ~ん」  からかうように口角を上げて、高柳が指を立てていく。山中は5を数えるまでは高柳を睨みつけていたが、6を唱えたところで舌打ちをし、「分かったから!」と乱暴に席を立った。  やばい!気づかれる!  慌てて設楽はその場を後にした。頭が混乱して、足元がふらつく。  先生、キスしてた!あれ嫌がってたけど、それは学校だからだよな?家に帰ったら……。  不意に足が止まる。その足が、ガクガクと震えだした。  家に帰ったら、先生は、高柳と……。  自分の体を、ぎゅっと抱きしめる。  足元に、深い穴が穿たれている気がした────。

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