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歴史の授業
「この時代のローマのキーワードは、『パンとサーカス』。皇帝は市民に食べ物と娯楽を提供して……」
世界史の星野の声が教室に響き渡る。だが、設楽の頭には全く入ってこなかった。まぁ良いや。後で誰かにノート借りれば良いし。正直、そんな大昔の人間がコロッセオでライオンに喰われようが、俺の知った事じゃないし。
今現在最大の問題は、放課後、山中先生が高柳に喰われてることだ。
……やっぱ、合意の上なのかな……。先生前はぶっ殺すとか言ってたけど、昨日は言わなかったし……。
設楽は授業もそっちのけで、2人のことばかり考えていた。
つうか、やっぱり高柳が上?見るからに上っぽかったし。そうすると先生やっぱ下?ウソ~、俺先生上だと思ってたのに……。あげても良いとか思ってたのに……。
なんか、すごい親しそうだった。いや、前から仲良かったけど。高柳、毎日先生のとこ入り浸ってるし。いや、勝手に押しかけてるだけかと思ってた。でも高柳、先生のお兄さんまで知ってるっぽかったし。家族知ってるってよっぽどだろ。くそう、高柳……。
嫌悪感は不思議となかった。それでも悔しさと、どうしようもないほどのジェラシーが心の中に渦巻いている。
山中が高柳とできているのなら、自分が山中に振り向いてもらえる可能性は全くないことは分かっている。それでも設楽は放課後7時を回ると、美術準備室の前に吸い寄せられるようにへばりついた。
山中の研修日は水曜日で、水曜は学校に来ない。だから水曜以外の平日は、設楽は欠かさず美術準備室を覗いていた。もう化学準備室に大竹がいてもかまわなかった。大竹がいる間は合い鍵で化学室に入って、大竹がいなくなるまで息を潜めている。それが設楽の日常になっていた。
そういえば、高柳の研修日も水曜日だ……。教員達は各自バラバラに週一で研修日を設けているが、2人の研修日が同じなのは、偶然なのか……?
……いや、きっと偶然じゃないんだ……。示し合わせて……じゃあ、水曜日は2人で一緒に過ごしているのか!?どっちかの部屋で睦まじく笑いながら過ごし、夜になったら……。
悔しくて、悲しくて、涙が出そうになる。
それでも、どうしても準備室を覗くことを止められなかった。
自分でも自分のやってることがストーカーなんじゃないかとイヤな気分がする。それでも、身を捩ってもがきながら、段々と体を色づかせる山中を、見ずにはいられなかった。
もしもあれが俺だったら。
俺が、高柳だったら……。
そう思うと、ゾクゾクして背中が震える。
いや、でもずっと俺、先生って上だと思ってたし。……攻める時の先生、どんななんだろう……。絶対男らしくてカッコイイよな……。いや、俺攻められてる先生だって、さわりだけしか知らないし……。どんな声出すんだろう……。どんな顔するんだろう……。先生、下が良いのかなぁ……。俺、先生に抱いてほしいのに……。
そこまで考えてハッとした。
俺そんなに下希望なの!?俺が先生抱くって選択肢は!?え~、でも俺女抱いたことあっても男抱いたことないし……いや、抱かれたこともないんだけど……。つうか、男同士がどうやるのか、ネットで調べただけだし。やっぱ一度ゲイビとかちゃんと見といた方が良いのかな……。
「じゃあ授業終わります。プリントんとこテスト出すから、しっかり覚えとけよー」
星野の声に、やっと設楽は授業が終わったことに気がついた。かったるくて、なんだかもう体を起こしてるのが辛い。ここのところずっと、毎晩のように夜中まで山中をおかずにひとりえっちに耽ってるのだから当然か……。
早く放課後にならないかな……。
友達が話しかけてくるのに何となく返事をしながら、設楽はただ時計の針を眺めていた。
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