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高柳ー4
「……たかやな……」
「もうトロトロだな。可愛いよ、ユキ」
服の上から胸の突起をゆっくりとさすられる。もどかしい感覚に腰がうねる。そんな刺激じゃ足りないのに……。くすっと、耳の上で笑う声がする。高柳の筋張った手がTシャツの中に入ってきて、脇腹を下から上へと撫で上げる。
「んんっ…、たか……やめ……」
ガクガクと膝から力が抜けていくのを感じた。
ダメだ。正気に戻れ。高柳が何を考えてるのか分からないのに……!
高柳が笑いながら山中の体をソファに横たえる。首筋をねっとりと舐められると、泣きそうになった。
「やめて良いのか?」
たったこれだけのことで高柳の思うようになる体が恨めしかった。人世の半分近くを高柳と抱き合っているのだ。お互いに、お互いの体のことは知り尽くしていた。
くそっ、始めたのは、俺だったのに……。
「だから俺は、やめ……ろって……」
弱々しく高柳の胸元のシャツを握ると、その手の甲にもキスをされる。
擦りつけられた下半身は、もう互いにギチギチになっていた。
脇腹を、触れるか触れないかの柔らかさで、何度も手が上下する。
「あぁ…」
山中の口からとうとう堪えきれずに甘い嬌声がこぼれた。
……触れて欲しい……。
こんな中途半端にではなく、もっと……
その時。
────ピンポーン────
最初、その音が何なのか、山中には分からなかった。
────ピンポーン────
もう一度玄関のチャイムが鳴り、高柳が小さく溜息をついた。
「タイムアップだ、ユキ。設楽に飯来たから早く出ろって言ってきて」
立ち上がってソファを離れる高柳がの背中を見て、山中は一瞬自分の置かれた状況が分からなくなった。
え?飯?……設楽?あ、そうだ……今設楽が風呂に入って……。
のろのろと立ち上がろうとしたが、足にうまく力が入らなかった。頭がまだボーッとしているが、それでも自分の生徒がすぐそばにいるということだけは分かった。ジーパンの前立てに触ってみる。触らなくても、鎮まりきらないそこが自己主張しているのは分かっていたが、やりきれない思いで山中は溜息を吐き出した。
……こんな姿を設楽に見せられる筈もない……。
どうしようかと悩んで、結局山中は何もしないでソファに突っ伏した。
「ユキ、ラーメン伸びるから、早く設楽呼んでこいって。おい、むくれんなよっ」
出前を受け取った高柳が、リビングと玄関を何往復かしながら声をかけてくる。なんでそんな普通の声なんだ……。
「……お前が行ってこい……」
「何?立てない?」
全てのメニューをテーブルの上に並べると、高柳がからかうように笑った。嬉しそうな声に腹が立つ。
「……お前、どうやってソレ収めたんだよ……」
悔しくて、ソファに押しつけた顔を上げることができなかった。なんだかこれでは、自分ばかり感じているみたいだ。
……いや、実際自分ばっかりいじられて、自分ばっかり感じてる訳なんだけど……。
チクショウ、高柳の奴……!
「いや、まだ収まってない」
ほら、と、腰を押し出すようにして山中に見せてくる。……なんだそれ。間抜けもいいとこだろ……。
「……そんなんでラーメン屋の兄ちゃん、驚かなかったのか……」
「出前先の股間なんか、兄ちゃんもいちいち見やしないだろ」
しょうがないな、と、高柳の気配がリビングから消えていった。設楽を呼びにいったのだろう。2人が戻ってくる前に、のっそりと山中は体を起こし、テーブルに移動した。机の上に自分の好物のかに玉丼と野菜たっぷり味噌ラーメンが乗っていて、いつもなら嬉しいはずなのに、今日は全く食べる気がしない。
「……高柳……」
これから先の展開を想像しても、悪い状況しか想像できない。山中は大きく溜息を吐き出し、それから机に額を付け、じっと目を閉じた。
「高柳!ズボンとかねぇの!?Tシャツにパンイチってどんだけマニアックだよ!」
「本当のマニアックなら、Tシャツの下は素っ裸だろ。ズボンは体乾いてから制服のズボン履け。とりあえずそれで飯喰えよ」
高柳と設楽がぎゃーぎゃー言い合いながらリビングに入ると、既に山中はテーブルに座っていた。机に額を付け、じっと動かない。
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