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高柳ー6
「“酒に酔って前後不覚でした”って、大義名分だよ。ユキ、全部飲め。設楽もだ」
「お前の思い通りにはならない……!」
「飲め」
「いやだ!」
身を捩る山中に、何か言い切れない物を感じて、思わず設楽は立ち上がった。
「じゃあ俺が飲むよ!」
グラスのアルコールを一気に煽ると、すぐに山中の缶も掴む。
「設楽…!」
ぐっと一気に飲み干すと、すぐに胃が焼けたように熱くなった。
ジン……。水割りのバーボンなら父さんと一緒に飲むけど、ジンってどのくらい強いんだっけ……。
「バカ、ジンはアルコール40パー超えてるぞ!」
咄嗟に立ち上がった山中は、しかしアルコールが回ったのか思わず隣りに座っている高柳の肩に手をかけた。だが高柳はその手を見つめながら、平然と「それはビーフィーターだから、46パーだ」と呟く。
「設楽が急性アルコール中毒にでもなったらどうするんだ!それでなくても未成年の体にアルコールは」
「飲めると思ったから飲んだんだろう?初めての飲酒って訳でもなさそうだ」
「高柳…!」
「来い」
肩に掛かった山中の手を掴んで、高柳が立ち上がる。
「イヤだ、高柳……!」
「やめろよ!先生嫌がってるだろ!」
「お前も来るんだよ、設楽」
自分を見る高柳の目が、昏 く笑っている。
「設楽、逃げろ…っ」
山中が切羽詰まったように自分を見ている。
心臓が、ドクリと鳴る。
逃げる……?先生を置いて……?
俺が先生を置いていったら、高柳は先生にひどいことをしないだろうか……。
ひどいこと……?
耳朶 を唇に挟んだり
首筋を撫で下ろしたり
キスを奪ったり……?
高柳がフッと鼻先で嗤って、そのまま寝室の扉を開けた。
1人暮らしの男の部屋にあるにしては大きなベッドを見て、設楽の頭に血が上る。
ここで、何度も先生は……。
山中の体がベッドに沈む。だが高柳の視線は、挑むように設楽を捉えている。
帰らなきゃ。
帰らなきゃ。
だって、先生嫌がってる。
高柳はきっと、先生にひどいことをする。
でも……。
設楽の足は動かなかった。
心臓がやかましいのは、きっとさっき飲んだ酒のせいだ。
頭がボーッとするのも酒のせいだ。
さっきの大義名分という言葉が頭を掠めた。
そうだ。
これはみんな、酒のせいだ……。
設楽はフラフラと、まるで何かに引き込まれるように、寝室に足を踏み入れた────。
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