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祭りの後ー2

 車の中で、高柳はカーステレオをかけて、タバコに火を付けた。スピーカーから流れてくる洋楽を聞くとはなしに聞きながら、設楽は何から話して良いのか分からず、じっと下を向いていた。その沈黙をどう取ったのか。 「家についたら起こしてやるから、寝てろよ」 「……いや……訊きたいことがいくつかあって……」 「ん?」  前を見ながら高柳は気のない様子で一応促した。多分、何を訊いてもまともに返事をしてはくれないだろう。  ────でも。 「……なんで、俺にこんなこと?」 「あ~、まぁ……」  窓を開けると一度大きく煙を吐き出してから、高柳は少しだけ考え込むように煙草を唇で上下に振った。何と答えたものか、考えてでもいるのだろうか。しばらく間が空いて、それからようやく高柳は口を開けた。 「たまにはユキにちんこ使わしてやらねぇとさ。あいつが浮気しても困るし?だったらまぁ、3Pなら良いかなって」 「は?誤魔化すなよ!」 「……いや、これが案外マジなんで……」 「おい!生徒にこんな事させといて、そんな答えで納得するかよ!ふざけんなって!」  設楽が詰め寄ると、高柳は面倒くさそうに煙草を灰皿に押し込んだ。 「ったく、メンドクセーなぁ!良いじゃん、別に理由は何でも。お前ユキとしたかったんだろ?ならできて良かったじゃねぇか」 「なっ!」  開き直った高柳に腹は立つが、山中としたかったのは本当だから言い返せない。設楽はギリギリと睨みつけてみたが、高柳は白けた顔をして視線を逸らしてしまった。 「……じゃあ他のこと訊く。あんたら、中学の時からしてんの?」 「してるよ」 「先生から告白したの?」 「告白なんて生やさしいモンじゃないっつうの。あいついきなり俺のこと押し倒して、俺のこと犯ったんだぜ?ありえる?いきなり俺がネコだよ?」 「……なんで先生そんな……」 「好きだったんだろ、俺のこと。まぁ、本当は俺だってあいつに惚れてたけど、親友押し倒したらシャレにならねぇとか悩んでた分だけ、俺の方が可愛げあったよなぁ。あいつ容赦ねぇんだもん。いきなりだよ?いきなり!」  高柳はそこにこだわっているようだったが、設楽にしてみれば、それだけ先生に惚れられてて結構な事じゃないかとやさぐれた気持ちになった。くそうっ!どうして俺、先生と同い年じゃないんだろう。どうして高柳ばっかり、先生と幼馴染みなんだろう。 「じゃあ、その頃からずっと?途中で別れてたこととかなかったのか?さっきの話だと、2人とも適当に他の奴と寝たりしたことあるんだろ?」  その台詞に、高柳は一瞬設楽の顔を睨みつけた。びくりと肩が竦むほどの激しい目だ。設楽はまずいことを言ったかと口ごもったが、俺には言う権利があるはずだと、気持ちを奮い立たせる。高柳のオモチャにされているのだ。びびって泣き寝入りしたら、それこそこいつの思うままじゃねぇか。  信号が赤になり振動音が低くなると、車内の沈黙は痛いほどになった。高柳はすぐにまた目を逸らすと、下唇を噛んで目を閉じた。それから小さく口の中で唸り、押し出すように「……それは、あるな」と低く呟いた。 「ならあんたは先生以外の奴と寝たりしたんだろ。だったら先生じゃなくても良いんだろ?」 「……うるせぇな。長い人生には色々あるんだよ。それでもそのたんびに元鞘に収まってんだから良いだろ。……あいつは俺に惚れてるし、俺はあいつがいないとダメなんだ。お前を巻き込んだのは悪かったけど、こっちも必死なんだよ」  信号が青になる。今時珍しいマニュアルのギアを入れ、高柳はいきなりセカンドで発進した。 「必死って……どういうこと……?」 「うるせぇな。大人の事情だよ」  高柳は胸ポケットから煙草のボックスを取り出すと、指で弾いて一本取りだし、口の端に咥えた。苛々と指先がせわしなく動いている。 「おっさん、煙草ばっか吸うなよ。家で煙草臭いと疑われるだろ」 「うるせぇな、火つけてないだろ。口寂しいんだよ、俺寂しがり屋だから」 「それ関係ないだろ」  しばらく高柳は咥えただけの煙草を口の端で上下に揺さぶっていた。だがやはり物足りないのか、ライターに手を伸ばす。 「おい高柳」 「うるせぇって。大竹さんか、お前は。それより、どうすんだよ」 「何が」  もう一度窓を開け、点けたばかりの煙を吐き出す。一応気にしているのか、煙草を持つ手を窓の外に出しっ放しにし、時々思い出したようにその手を口元に持っていく。昼間ならともかく、この時間へ結構寒い。さっさと煙草を消して窓を閉めてくれないかと何度も高柳を睨むのだが、全く通じてないようだった。空気の読めない男なのか、空気を読む気がないのか……。

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