33 / 111

祭りの後ー3

「おっさん、窓閉めろよ。寒いっつうの」 「うるせぇな、煙いのやなんだろ?我慢しろよ、俺だって寒いわ。で、この先どうすんのって。もうこういうのは勘弁だと思うなら、お前は2度と俺らに付き合わなくても良いんだぜ。まぁ、一応ね。俺的には、厳選したつもりなんだけどさ。ユキに惚れてそうで、なおかつユキがその気になりそうな相手?あ~、でもやっぱ校内で見つけようとしたのがまずかったのかな。お前がイヤだってんなら、別の奴探すけどさ」 「別の奴って……それ、他の奴を誘うって事?」 「まぁ、そうなるかな……」 「……なんで3Pじゃないといけないんだよ」 「だから、色々あるんだって。いや、いるんだけどさ、ユキのグループ展仲間に。でも俺がイヤなんだよ。そいつがねちっこいタイプでさぁ!」 「は?俺が断ったら、そいつ誘うの?」  他の奴が?他の奴が先生に抱かれるの?俺が断ったら?  それ俺に選択肢無ぇじゃん!!  設楽は慌てて高柳に詰め寄った。他の奴を先生が抱くなんて、そんなこと設楽だって許せない。 「お、俺は先生としたいよ……!でも、なんで高柳と3Pじゃないとダメなの?」 「俺の許可の元でエッチするんなら、3Pでも同じ事だろ。つうか、俺の見てないとこでユキが他人とするとか許せるかっつうの」 「あんたの許可の元なら、別にあんたの前でじゃなくても良いじゃん!どうしてもあんたの前じゃなきゃダメってんなら、せめて3Pはやめろよ!そこは譲歩してくれよ!」 「ユキが目の前で喘いでたら、手出すだろ、普通」 「普通じゃねぇよ!だから、俺をあんたの都合の良いときに使ってくれて良いから!だからせめて3Pはやめてよ!」  必死に迫る設楽をちらりと見てから、高柳は唇の端でニヤリと笑った。 「ユキと同じ事されてると思うと、感じただろ?」 「!」  瞬時に赤くなる。  なんで分かるんだよ!いや、それは確かにそうだったけど……! 「あん時、ユキが同じ事されてなかったら、お前あそこまで感じなかったんじゃねぇの?初めてなのに結構感じてたのは、確かにお前に素質があったのかもしんねぇけど、それ以上に3P効果だろ?」 「つうか素質ってなんだよ!ねぇよそんなの!そりゃ3P効果だろ!」 「へぇ、やっぱりユキとシンクロして感じてたんだ」  ニヤニヤとスケベ笑いをしながら高柳が煙草の灰を灰皿に落とすと、ナビが「目的地周辺につきました」と声を上げた。気がつくと、そこは家から50mほどの場所だった。高柳の攻撃をどうやって交わそうかと思っていた時だから、丁度良い。 「ここで良い!ここで降ろしてよ!」  設楽の切羽詰まった様子に吹き出すと、「了解」と、楽しそうに高柳はサイドブレーキを引いた。  慌てて助手席のドアを開け、後部座席に置いていた鞄を掴むと、高柳が思いの外真面目な顔でこちらを見ていた。 「な、なに?」 「いや…俺ら明日は研修日で休みだから、お前も少し考えとけよ。無理に付き合う必要はない。ただ、男覚えて変な奴で試そうと思ってんなら俺らんとこ来い。下手な奴にかかると怪我じゃ済まないから」 「俺は先生以外の奴とするつもりはねぇよ」  何を見当違いのことを言ってるのかと、設楽は呆れて眉を顰めてた。  高柳は微かに笑った。  なんだか、胸が痛むような笑みだった。 「な、なんだよ……」 「いや。まぁ、とにかくどうするのかはお前が決めてくれ。遅くまで引き留めて悪かったって、小早川部長が言ってたってお母さんに言っといて」 「誰が小早川先輩だよ!」  声を立てて笑うと、窓から右手を出してひらひら降りながら、高柳の車が去っていった。設楽はしばらく車が消えていった先を見送っていたが、やりきれない溜息が出て、小さく地面を蹴った。 「……俺に決めろなんて……。最初から、選択肢はないくせに……」  10月の冷たい夜風は、すぐに日中にも冷たい風を吹かせるだろう。  ────この、伽藍堂の胸の中と同じように────

ともだちにシェアしよう!