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魔法の飲み物ー3

「どうやって作るの?難しい?」 「いや。飽和水溶液作ったらそこに核になるものを入れて、放っておけば良い。そいつみたいに綺麗な正八面体を作るにはちゃんとした種結晶が必要だが、こっちのは針金で作った木を入れておいたら勝手に固まって結晶になった奴。時間をかけて手間暇かければでかくて綺麗な形になる。ただできあがった結晶は、触ると表面が溶けて汚くなるから、こうやって瓶に入れて外から見てるだけにしとけ」 「分かった!マジでくれんの?ありがとう!ね、先生、高柳が文化祭に何か実験して展示しろって言うんだけど、これとかどうかな」  思わず目をキラキラさせて見上げると、大竹は「もう半月しかねぇから急場仕事になるが、まぁ良いんじゃないのか。苦労すんのはお前らだし」と肩を竦めた。 「でもそういうのは、顧問の高柳先生に相談しろ」 「だって高柳なんて、いつも部活に来ないじゃん」 「明日はちゃんと顔出すように言っておく」  不意に、わくわくした気持ちがギュウっとしぼんだ。  そうだ。  いつも、高柳は部活には来ない。いや、化学教師のくせに、この化学準備室にも居つかない。  ……先生と、一緒にいるのだから……。  設楽は思い切って大竹に向き直った。  こんなの、普通じゃない。絶対、普通じゃない! 「……なぁ、大竹先生は高柳がいつもここにいないの、どう思う?部活の顧問だって大竹先生がやってるみたいなもんじゃん!自分の仕事人に押しつけて、高柳いつも山中先生と……」 「俺が追い出したからなぁ」 「え?」  追い出した?  思わぬ返事に間抜けな声が出る。 「あいつが赴任してきた時さ、準備室で煙草は吸うわ、生徒押しかけてくるからうるさいわ、へらへら話しかけてくるから邪魔くさいわで、よそでやれって追い出したんだよ。それに俺、ああいうタイプ、嫌いだしな」 「えぇ!?でも……」 「最初はあいつも気まずそうにここにいたんだけど、俺が毎度出てけ出てけって言いまくってたら、そのうちにな」  そのうちにって……。  あんたのせいかよ~~~!!!!! 「そんな勝手なことして良いのかよ!じゃあ部活の顧問は!?仕事もしないで化学部の顧問ですとか、おかしいじゃん!だったら大竹先生が化学部の顧問すれば良いんじゃないの!?」 「そりゃ無理だな。俺、写真部の顧問なんだわ」 「え?」  写真部の顧問?  大竹が他の部活の顧問なんて話は聞いたこともないし、いつも化学準備室にいて、どこかの部室に顔を出している様子も見たことがない。  そもそも進学校の藤光学園は、いくつかの運動部には力を入れているようだが、生徒の方も受験勉強を中心に据えている者が多く、部活はあまり盛んではない。メジャー系の部活でさえそんな調子なのだから、マイナー系文化部ともなれば言わずもがなである。  しかしいくら文化部でも、それはないんじゃないのか……。  心の中が顔に筒抜けで、その百面相を面白そうに見ていた大竹が、わざとらしく腕を組んだ。 「お前甲子園でも狙ってんのかよ。顧問が四六時中部活に顔出すとか、ウザくね?なに?そんなに高柳先生に部活に来てほしい?」 「そんなわけねぇだろ!」 「でもそう言ってるように聞こえるんだけど?化学部の仕事は別に俺でもできるだろ。どうせ俺いつもここにいるし、薬品出す許可出して鍵開けるくらい、手間でも何でもねぇし」  あのクソうるせぇガキとずっと同じ部屋にいるよりよっぽど気が楽だと、大竹は真顔で言った。  クソうるせぇガキって、高柳のこと……だよな、きっと……。 「まぁ、お前が高柳先生がいなくて寂しがってたって、ちゃんと伝えといてやるよ」 「だから、マジで逆だから、それ!」  言うに事欠いて何だそれはと睨みつけると、化学室と準備室をつなぐドアが開いて、部長の小早川が顔を出した。  先日高柳が電話で名前を騙ったときは明るげな声など出していたが、実際の小早川は几帳面で神経質な理系オタクだ。 「楽しそうなとこ悪いけど、先生、バーナー使用の許可下さい。カルメ焼きの練習するんで」 「重曹とザラメはあんのか」 「それはこっちで用意してます。毎年のことなんで」  生真面目そうな黒縁眼鏡をかけた小早川が、それじゃあと頭を下げると、設楽も慌てて立ち上がった。 「部長!俺も戻ります!つうか部長、実験のパネル展示、ミョウバンの結晶にしません?」  勢い込んで貰ったばかりの結晶の入った瓶を見せると、小早川は片目を顰めた。  あれ?何その反応……。 「は?パネル展示?マジでやるの?まぁ良いけど、じゃあそれは1年の担当ってことで」 「え?あの、1年は俺と佐藤しかいませんが?」 「毎年高柳先生展示やれって言うけど、今までそんなのやったことないからね?後2週間しかないのに何考えてんの?まぁ、俺たちは駄菓子屋とお化け煙の準備で忙しいから、明日高柳先生に許可もらうとして、計画書今日中に作っといて。薬品使うなら先生に揃えてもらわないといけないし」  言うだけ言うと小早川はさっさと化学室に戻ってしまった。  ……ひどっ……。  にやにやと大竹が笑いながら、「まぁ頑張れよ」と他人事のように手を振った。

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