37 / 111

計画書

「お前が俺に会いたがって寂しがってたって聞いたんだけど。何?惚れた?」  翌日の放課後。化学室に入って来るなり、開口一番の高柳の台詞がこれだ。 「ふざけんなよ、んな訳ないだろ!?」 「まぁ俺も格好良いからしょうがないよな。で?」  他の部員は高柳の軽口には馴れてるらしく全員スルーしているが、一昨日あんな事があったばかりの設楽にしてみれば、シャレにならない台詞だ。 「だってあんた必要な時にいないじゃん。ほら、学祭で実験のパネル展示しろって言ってたけど、ミョウバンの色つき結晶の実験とかどう?」 「結晶か~。これ大竹先生が好きなんだよな」 「窓際に並んで綺麗だったからさ。これ計画書。ミョウバンはスーパーで売ってるので作れる?」 「作れる」  計画書に目を通しながら、高柳が口の中で小さく「お前マメだな」と呟く。そこにはネットで調べたらしいレシピと色計画が並んでいた。後13日あるから1日1色ずつ作っていくつもりで、8通りの結晶の案を作り、3日間をパネル制作に、残りの2日は予備日に充てておいた。意外と几帳面な性格なのだ。 「そしたら硫酸カリウムクロムと種結晶用意してもらって良い?後は食紅とか水性カラー使おうかと思うんだけど。ミョウバンだけじゃなくて、硫酸銅使っても良いかなぁ」 「水性カラーなら染色材料使った方が発色綺麗だな。資材庫に入ってるから使って良いぞ。硫酸銅は別に良いんじゃない?詳しいことは大竹先生に訊けよ。あの人時々思い出したように結晶作り出すから」 「大竹先生が結晶作りとか意外。そういうの研究してる人?」 「いや、純粋に趣味らしいけど。前忘年会で酔っぱらった時に語ってたぞ。『飽和水溶液は外から見てもただの液体だけど、その中には溢れ出る限界ギリギリまで成分が溶けていて、ちょっとの温度変化と小さな種を与えてやれば綺麗な結晶になる。でもできあがった結晶は手で触ると溶けて崩れるから、ただ眺めているしかなくて、その切なさが良いんだ』ってさ」 「切なさ?」  大竹の台詞とは思えなくて、高柳の顔を思わず伺ってしまう。視線に気づいて、高柳も小さく苦笑した。 「大竹先生、意外とロマンチックなのかもな」  いつも苛められてるから信じられないけど、と笑いながら、高柳は少しだけ遠い目をした。  え。大竹の台詞に高柳がこんな顔するとか、すげぇ意外なんですけど。ロマンチックとか。ロマンチックとか言うとか。つうか、高柳の方が切なそうなんですけど!!  高柳はしばらくそうして遠くを見ていたが、設楽に見られていることに気づくと慌ててポケットからシャチハタを取り出して、計画書に了承印を捺した。心なしか、気まずそうな顔をしている。 「それじゃ、実験頑張って。マジで結晶は大竹先生の方がノウハウ持ってるから、あっちに聞いて。それと」  計画書を返しながら、高柳が耳元まで顔を近づけてきた。一瞬周りを気にしてから、設楽にだけ聞こえる低い声で「今日俺先に帰るから、お前はユキのとこ寄ってから帰れ」と囁いた。 「え……」  慌てて高柳の顔を確認する。すごい目ヂカラだ。その目で見られると一瞬体が竦みそうになる。  ……それって、そういう意味だよな……?  設楽は生唾を飲み込んで、それから小さく頷いた。
いいね
笑った
萌えた
切ない
エロい
尊い

ともだちとシェアしよう!