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小瓶の中の世界ー3
「良いよ、それでも!先生、それでも良い!俺、先生が好きなんだ!」
山中の腕に縋りついた手を、山中はそっと外した。
どうして?先生の腕に縋りつくことすら許されないのか?
こないだはちゃんと抱いてくれたのに……!
「先生…!」
泣きそうになって更にしがみつこうとすると、山中はそっと唇に人差し指を当て、「しぃ」と合図する。
「設楽、その台詞は、無しだ」
「でも!」
山中の瞳は先ほどの戸惑いを脱ぎ捨てて、微かに何かを灯していた。
「もう、それは知ってる」
その言葉と一緒に、山中の唇が設楽の唇に触れた。
先生の唇。
先生が、自分から俺に……。
嬉しくて、設楽は口腔内に入り込んできた山中の舌にきつく自分の舌を絡めた。ぬるぬるとした感触に、首の後ろがぞわぞわと粟立つ。
「んっ」
ちゅくりと音を立てて出て行こうとした山中の舌を引き留めるために、慌てて舌に吸いつく。
まだこうしていたい。
ずっとこうしていたい。
先生の舌。それだけで達きそうだった。
ふっと、山中が笑ったような気がした。それから舌が1度離れ、角度を変えて更に深いキスをくれる。溢れ出した唾液がシャツを汚したが、全く気にならなかった。山中の背中にきつく腕を回すと、自分のうなじと腰に回されていた手に力がこもり、それだけで、ひどく求められている気がした。
────俺が、高柳を好きだからだよ────
そんなことは、分かっている。
それでも構わない。
今、先生がキスしているのは俺なのだから……。
ちゅっと軽い音がして今度こそ唇が離れると、山中の指が設楽の目尻をなぞった。
「設楽、可愛いな。目の縁、真っ赤」
先生の笑顔がぼやけて見える。頬が熱くて、その頬に涙が落ちるのを感じた。頬だけじゃない。自分の吐く息が熱くて、キスだけでこんなになるなんて、信じられなかった。
「どうしようか、設楽。お前のここ、もうこんなになってる」
山中の脚が設楽の膝を割り、太腿を押しつけて、くっきりと形を変えた下半身を押し潰した。そんな刺激だけで、達きそうになる。
「せんせ…」
ゆっくりと抱き寄せられ、机の上に腰掛けさせられる。机の上にはまだ書類や工具やパーツが山積みになっているのに。
山中の顔が近づいてきて、設楽の耳元を掠めながら唇が動く。
「ここで、しちゃおうか…?」
掠れた声。初めて聞いた、山中の雄の声。
「でもここ学校だし……。こないだ、高柳には駄目だって……」
目眩がする。山中に誘われているのだと思うと、また泣きそうになった。
「高柳ならダメでも、お前なら良いよ?」
山中の指が、設楽のYシャツのボタンにかかる。
「それとも、美術室に行く?作業台の上、広いよ?」
山中のソコもすでに緩く勃ち上がっていて、布越しの感触だけで目眩がした。
「先生…」
「おいで、設楽」
差し延べられた指先に縋るように、設楽は美術室へ足を踏み入れた。明かりの消えた美術室はガランと広く、その広さがなんだか怖かった。
「せ…先生……」
「怖い?」
くすりと、誘うように笑う。
初めて見る山中の表情に、設楽はどうして良いか分からなかった。
「先生って、ちょっと、思ってたのと違う…かも……?」
山中はもう1度ぷっと吹き出した。楽しそうに設楽の頬に手を当て、暗がりの中でこちらを伺ってくる。
「なに?こういう俺はいや?今更無かったことにしたいとか、言う?」
思いっきり、首を振る。
無かったことに?
そんなこと、絶対にない。
「俺、エッチな人大好き。思ってたより先生がエッチで良かったなぁって思って」
「俺もだよ、気が合うな」
軽く鼻先にリップ音を立ててキスされると、山中はそのまま明かりを点けようとスイッチに足を向けた。その肩を、設楽は咄嗟に引き留める。振り返った山中に微かに首を振ると、山中は小さく笑って設楽を作業台に導いた。
「ここは、俺のテリトリーだ。設楽、覚悟は良い?」
廊下の明かりが漏れ、美術室の中はほの暗かった。それでも、山中の姿は光るように浮かび上がっている。
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