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茜色ー1
どれだけ作業台の上にいたのだろうか。
その後のことはよく覚えていない。
何度も達かされたような気はするのに、思い出そうとしても記憶に靄 がかっているようだった。
終わった後、山中が熱いタオルで体を拭いてくれたのは覚えている。
足に力が入らなくて、立ち上がれなかったことも。
山中の肩を貸りてなんとか学校の外に出たことも、何となく覚えている。
携帯を取り出されて、親に電話をして。今度は化学部の同じ1年生部員の佐藤と名乗って、何か告げて。
その辺りからの記憶が途切れている。
目が醒めたら、見知らぬ部屋だった。
「……先生?」
辺りを見回す。薄暗い、茜色の空。朝焼けなのか夕焼けなのか分からず、腕時計を見ると6時を指していて、ますます今が朝なのか夕方なのか分からなくなった。
辺りを窺うと、自分の背後に山中の寝顔があった。
「先生…?」
「んっ…?」
頬に触れると、山中が小さく身じろぎして、薄く目を開けた。
「……まだもう少し寝てろ……」
「今、朝?」
「あぁ……目覚まし鳴ってないから、もう少し寝てろて。昨日はごめん。少しやりすぎた……」
山中の手が設楽の頭をぽんぽんと叩き、そのまままた眠ってしまったらしい、その手が頭から離れることはなかった。
いつここに来たんだろう。布団から出ようとしたら、体中が痛くて小さく呻いた。
こないだよりも、かなり体を酷使してしまった。腕を上げることすら難しい。それでも悲鳴を上げる体をなんとか引き起こすと、強引に立ち上がってみる。
肌着しか身につけていなかった。ベッドのすぐ下にある座卓に、自分の制服が畳んで置かれている。
……先生の部屋だろうか……。
ベッドと、座卓と、座布団と、テレビ。家具らしい物はそれしか見当たらなかった。
ギシギシいう体を騙し騙し歩いて、なんとかトイレを見つけて用を足す。もう1部屋、ドアの開いている部屋はアトリエだろうか。
覗いてみて、設楽は息を飲んだ。あまりにも非日常的な物が、その部屋の中を占拠していたのだ。
曲線を描いた大きな鉄製のフレームに、様々な色ガラスが嵌めこまれ、美しい模様を描いている。ステンドグラスだろうか。そのフレームはドーム型をしていて、何かの生き物のようにも見える。色とりどりのガラスが朝日を透かし、床に複雑な模様を落としていた。
なんだろう、これは。
いや、どこだろう、ここは。
自分がどこか別の世界にでも、踏み込んだような気がした。
「ん…何?もう起きる……?体、大丈夫か……?」
後ろから山中の声がした。振り返ると、まだ山中はベッドの上にいた。寝ぼけた顔で目を擦っている様子が、ひどく可愛らしい。
「先生、これ何?」
「ん~?次のグループ展の作品……。何か、作っても作っても追いつかなくてね……」
「虫?」
「ん。若いな、お前……。俺まだ眠くて……。シャワー浴びる?俺、その間もう少し寝てて良い?」
「はい、シャワー借ります」
「うん……」
ぬるいシャワーを体中に浴びて、少しだけ体を動かす。腰から背中にかけてが特に痛むが、こないだと同じように、後孔へのダメージは少ないようだった。
シャワーを終えて外に出ると、山中は宣言通りまたベッドに転がっていた。
くしゃくしゃの髪。
弛んだ目元。
少し開いた唇……。
俺、昨日先生と……。
顔が真っ赤になる。心臓の音が激しくて、周りの音が聞こえなくなる。
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