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科学部
その後は、3日経っても痛みが引かないならもう一度受診してくれと、型通りの説明を受け、保健室を後にした。
今高柳の顔は見たくなかったけど、大竹や小早川達も心配しているだろうし、カバンも上着も置いてきてしまったから、仕方なく重い足取りで化学室に向かった。
「あ、設楽!随分かかってたけど、大丈夫だったのか?」
化学室では、案の定部活のみんなが心配して待っていてくれた。それまで準備室に戻っていたらしい高柳と大竹も出てきて「大丈夫か」と確認してくる。
「うん、ちょっと切っただけだし、治療はすぐ終わった。ただちょっと話し込んじゃって」
「校医の先生と?何の話?」
小早川が意外そうに訊いてくる。確かに、校医と話すにしては、随分時間がかかっている。小1時間も話していたのだ。それは心配もかけるだろう。
1人事情を察したらしい高柳が、一瞬眉をしかめて、口の中で小さく「あいつ…っ」と呟いた。が、敢えて設楽はそちらを見ようとはしなかった。
「いや、何の実験してたんだって、そういう話。それで、今やってる結晶の話して、学祭の話で盛り上がっちゃって……」
「へぇ…。あの先生、そんな感じに見えないけど……。あ、そんな事より設楽、シャツ濡れてっけど大丈夫?体操着か何かに着替えないと風邪引くぞ?」
「あ、忘れてたっ」
話の内容に頭がいっぱいで、シャツの冷たい不快感にも気づかなかった。慌てて体操着を取りに化学室を出ようとすると、同じ1年の佐藤が困ったように呼び止めた。
「設楽、実験どうする?」
佐藤は元々結晶の実験よりカルメ焼きに嵌っていて、実験担当の1年のくせに、結晶作りには何も関わっていないのだ。学祭はもう目の前だし、設楽が保健室に行っている間に先輩達の力を借りてやっつけてしまおうかと思ったが、今更勝手にそんな事をして良いのかも分からず、とりあえず設楽が帰ってくるのを待っていたらしい。
「あ、実験は明日やる。先生、それで良い?」
下校時刻までもう間がない。設楽は高柳ではなく、大竹に向かってそう訊いた。大竹は小さく頷くと、「今日はもう良いから帰れ」と、小さく促した。
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