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2人の時間
美術の授業が終わると、後片付けをしてから準備室に向かった。昼休み前にこうして少し話をすることは、2人の間で習慣になっていた。
その時間が堪らなく愛おしい。
最近は高柳も山中にきつく言われているのか、その時間には姿を見せないことの方が多かった。
山中は気まずそうな設楽の様子に気づいていないのか、いつも通りの明るい顔を見せている。
「今週どうする?」
『今週』の意味するところを考えれば、その明るい顔はひどく場違いな気がするのは、設楽の心のためだろうか。
「あ…、行きます。でも俺、先生と2人で話がしたいんだけど」
「今?」
「いや、急がないんだけど、少し時間取って欲しい……。ダメかな」
設楽の真剣な目に、やっと様子の変化に気づいたのか、山中も急に顔を改めて頷いた。
「分かった。高柳は抜きでって事だな?」
「うん」
「今週は時間取れないけど、時間できたら連絡するんでも良いかな」
「はい」
山中はそれから少し設楽の顔を見て、「やっぱり、別れ話かな?」と、自嘲気味に笑った。
「そ、そういうのとは違うよ!」
「そう?」
思わず赤くなって視線を逸らすと、山中の手が設楽の頭をぽんと叩いた。
「遠慮はしなくて良いからね。無理して欲しくないんだ」
そんなの。
そんなの、ひどい。
優しそうな振りをして、俺を気遣ってる振りをして、結局俺なんか、いてもいなくても一緒だって言ってるんじゃないか。
設楽はぎゅっと目を閉じて下を向いた。
それでも、どうして俺は先生がこんなに好きなんだろう……。
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