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日帰り温泉ー2
「あぁ……別に泣き上戸ぐらいでそんなに恥ずかしがらなくても良いだろ?古典の大野さんなんか、ビール1杯で延々泣き続けるぞ?」
「そ……そうなんだ……」
「もう気にすんな。ほら、ちゃんと暖まれよ」
「うん…」
大竹が自分を気遣ってくれるので、本当にこれなら大丈夫かと、ほっと息を吐く。それでも思い出すとうわーっと来るのは仕方ないだろう。設楽は叫んでしまった事が余計に恥ずかしくて、さっさと話を変えてみた。
「先生はさ、本当はそんなに優しいのに、何で学校では生徒びびらせて喜んでるの?」
優しい?と、大竹が不本意そうな顔をするが、設楽が答えを促すと、大竹は何を当たり前な、と前置きした。
「楽しいからに決まってんだろ。大体、俺のツラぐらいでびびってる生徒の方がおかしいんだよ」
「だって授業中とか、相当怖いじゃん」
「俺は教師だぞ。生徒の顔色窺ってどうすんだよ。俺にびびってんのは、真面目に授業受けてない自覚があるからだろ」
全く懲りた様子がなく、肩を竦めてみせる大竹は、学校で見せる意地の悪い化学教師の顔をしていた。
「でもさぁ、こないだも平均点が35点だったのに、赤点が35点とか言って、教室を阿鼻叫喚の渦に叩き落としたじゃんっ」
「つうか、平均が35って低すぎんだろ。普通に授業聞いてりゃ、70点は行くぞ」
「いや、アレ難しかったって!」
藤光学園は2年から進路別クラスになるが、1年は混合クラスだ。大竹は普段予備校のテキストを作成しているだけあって、1年だろうが何だろうが、一流大学受験レベルの授業をしており、テストのエグさもハンパではない。理系を希望している生徒の得点はそこそこだったが、なにしろ文系の奴らの点数は目を覆いたくなるような物だった。
「それでもお前81点取ったじゃねぇか」
「俺は化学部だし!一応化学は頑張ったんだよ、これでも!」
「ちょっと頑張りゃ81点取れるのに、平均が35ってあり得ねぇだろ。あの位、良い薬だ」
そう言ってから、大竹は思い出したようにニヤニヤ笑った。
「くくっ。でも赤点が35って言った時のあいつらの反応、面白かったな。クラスの半分の奴らが赤点だと信じて叫ぶとか、あり得ねぇっつうの!くくくっ」
「だから~!やめろってそういうの!マジであんた嫌われてるから!男子はともかく、女子はマジで殺意走ってたぞ!」
「ははは、教師は嫌われてナンボだよ」
ざばりとお湯から出て前も隠さずすたすたと洗い場に行く高柳を、信じられない思いで見つめる。
あれでは高柳と合わないはずだ。なんて正反対な2人だろう。
高柳はプライベートでは鬼畜なのに、授業中はにこやかに愛想を振りまいて、生徒からの人気は抜群に高い。
そう。プライベートでは鬼畜なのに……。
高柳のしている事は、結局山中を苦しめているだけではないのか……。
いや、苦しめているというのなら、俺は……?
もし俺が山中先生だったとして、本当に高柳の事が好きだったとしたら、高柳の前で他の男と寝るなんて、きっとしたくない筈だ。
でも俺は、綺麗事を吐きながら、色んな事をたくさん言い訳して、それでも先生に抱かれている。結局俺が先生に抱かれたくて、先生を苦しめているのだ。
「────ら、おい、設楽っ」
「え?」
急に声を掛けられて、設楽は沈んでいた考えの淵から呼び戻された。ダメだ、ふとした隙間に、山中のことが心を占めてしまう。
「せっかくだから、背中流してくれ」
「あ、了解ですっ」
さっき軽く洗っていたけれど、今度はがっつり洗う気らしい。
張りのある締まった背中をゴシゴシと擦りながら、こぼれそうになる溜息を、設楽はぐっと飲み込んだ。
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※ このお話は全てフィクションであり、登場する人物、学校、団体等は全てイヌ吉の想像の産物であって、類似する人物や団体とは一切関係がないのですが、恐ろしいことにこの最悪のいたずらだけは存在しました……。もちろん、私は自分が赤点を取ったと信じて叫んだ女子の1人です……。まぁ、藤光学園と違ってごく一般的な公立高校だったし、これやった先生は残念ながら50過ぎの小太りのオッサンでしたが……orz
ちょびっと裏話でした……。
あ、私は智一くんと同じで、この先生がそんなに嫌いじゃなかったですよ。本命の先生は60超えたゴルバチョフ似の政経の先生と、50過ぎた元器械体操オリンピック候補生の体育の先生でしたが(笑)
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