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それでも愛には違いない
美術の授業が終わると、久しぶりに山中に声を掛けられた。あの日別れてからもう3ヶ月近く経っていた。山中とは随分長い間2人きりで会っていない。
「設楽、グループ展の話、覚えてる?再来週の木曜から日曜なんだけど」
「あ、もうそんな時期か!」
山中は案内ハガキを取り出して、設楽に渡した。
「俺、土日は会場にいるから、良かったら見に来てよ」
「うん、じゃあ……」
一瞬、土曜日には大竹と会うかもしれないと考えた自分に、設楽は苦笑した。必ずしも大竹と会うとは限らないのに。それでも設楽は、「じゃあ、日曜に行くよ」と返事をした。
良かった。設楽の小さな逡巡には、山中は気づかなかったようだ。
「日曜は最終日だから、3時までなんだけど大丈夫?」
「じゃあ朝一で行く」
「分かった。待ってるよ」
ふと思いついて、「高柳も来るの?」と聞いてみた。できれば、会場で顔を合わせたくはない。
「高柳は前日に搬入手伝ってくれることになってるんだけど、あいつこっち方面は本当に興味なくて、張り合い無いからさ」
山中は情けなさそうに笑った。
「しょうがないなぁ。相変わらずか、高柳」
乱暴に言うと、山中は、今度は楽しそうに笑って「ホントだよ」とこぼした。
山中の笑顔は穏やかだった。設楽を見るときにいつも浮かべていた、後ろめたさが消えている。
「……高柳とは、どう?そっちの方も、相変わらず?」
口調を柔らかく替えた設楽に、山中は小さく頷いた。
「うん」
設楽と山中の間には、まるで何年も一緒に歩いてきた様な、穏やかな空気が流れていた。
「そっか、良かった」
「うん」
年が10も違うとか、教師と生徒だとか、そういうことは関係なかった。設楽にとって山中は特別な存在だが、山中にとっても設楽は特別なのだ。
どうしてその「特別」が、愛や恋ではないのだろう。
でも、それを悔しいとも辛いとはもう思わなかった。ただ少しだけ、そんな自分を不思議に思っただけだ。
いいや、愛情があるのは間違いない。
それは設楽が最初に思った物ではないけれど、それでもそれは愛に違いなかった。
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