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高尾山-1

 土曜日の午後。設楽は大竹と2人で、並んでベンチに腰を下ろしていた。  辺りは人混みができていてガヤガヤとうるさい。冬だというのに高尾山の山頂はひどい混雑だった。 「……誰だよ、冬なら()いてるって言ったの」 「……昔は秋の紅葉と夏休みを外せば空いてたんだよ」  小仏バス停留場から城山を通って尾根伝いに高尾山まで歩くコースは、近郊だしお手軽なので、設楽にとっては子供の頃馴染んだハイキングコースだった。その話を大竹にしたら、じゃあ高尾山にビヤガーデンが出来たらしいから、ビール飲んで温泉浸かってから帰るってのはどうだと持ちかけられ、その気になって出かけて来たのだ。東京近郊だというのに尾根には雪が残っていて、澄んだ空気が気持ち良かった。  だが小仏側から高尾山頂に足を踏み入れた途端の人混みに、「これ山じゃねーだろ」「どこの遊園地だ」と、力が抜けてしまった……。 「誰だ、高尾山を三つ星なんかにしやがったのは」 「フランスのタイヤ屋だろ。マシュマロマンが社長やってるさぁ」 「そんなまともな返事を誰も期待しちゃいねぇよ」  山頂の茶屋でスポーツドリンクを買うついでにビヤガーデンのことを聞いたら、夏季限定だと言われて、2人のやる気は一気に地面まで落ち込んだ。 「調べとけよ!高尾担はお前だろ!なんで登山地図は用意したのにビヤガーデンのこと調べないんだよ!!」 「先生が調べろよ!ビールに用があるのはあんただろ!」 「どうせお前だって飲む気だったくせに!」 「はぁ?俺は高校生ですけど?」  ひとしきり醜い言い争いをした後、で、どうする?とお互いに顔を見合わせ、それから眼下の景色に目を向ける。人混みから背を向けると、遠くにスカイツリーがうっすらと見えた。  山頂の風は身を引き締めるようで気持ち良かったが、気を抜くと背後からいちゃついたカップルの声が耳に入ってしまう。つうか、雪の残ってる山道に、ミニスカで来るとかどんなカップルだ。彼氏も止めてやれよ。電車1本で来れるお手軽な三つ星だと思って、山舐めんのも大概にしろ。  あぁくそ。カップルに腹が立つのは、別に自分たちが男同士の空しいパーティーだからではない筈だと信じたい……。 「……小仏に戻るか……」 「そうだね。ビヤホールもやってないし」  2人は重そうに腰を上げて、並んで人混みから離れた。 「ママー、あのお兄ちゃん達、あっち行ったよ!僕達も行ってみようよ!」 「何言ってるの!あっちは何もないわよ!」  山だし!山だから何もなくても当たり前だし!つーか登山道も茶屋もあるし!!遠足で昼飯食える位広いスペースもあるし!!何より空いてるし!! 「……ビヤホールが開いてて、空いてる時期はねーのか」 「夏休み前の平日なら少しは空いてるんじゃん?」 「よし。大学の夏休みは2ヶ月あるから、お前が大学入ったら俺の研修日にリベンジだ!」 「研修日は休日じゃないんだろ!予備校だって言ってたじゃん!」 「1日くらいさぼったって罰は当たらねーよ。どうせボランティアだ」  ────俺が大学に入ったら。  前にも、大竹はそんなようなことを言っていた。俺が免許を取ったら、一緒に出かけて、俺にも運転しろと。  当たり前のように宣言する大竹に、胸がザワザワする。

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