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フレームのカエルー2
山中が今まで設楽にこんな大きな声を出したことはなかった。怒っているわけではない。自分を心配してくれているのだろう山中の方が、泣きそうな、辛そうな顔をしていた。
「お前、自分がどんな顔してるのか分かってるのか?そんな顔で大竹さんの隣にいて、大竹さんがどんな気持ちがするか分かってんのか!好きな人に心配してもらえればお前は気持ち良いかもしれないけど、本気でお前を心配してる大竹さんの気持ちはどうでも良いのか!?」
設楽は目を見開いた。
俺を心配しててくれる、先生の気持ち……。
設楽の目から、涙が一筋落ちた。
「う……っ」
いつもいつもいつも、自分を心配して貴重な土曜を自分のために使ってくれる大竹の気持ちを、自分は今まで考えたことがあったろうか。
「うぅっ、うぅううぅっ」
しゃくり上げた設楽を、山中がぎゅっと抱きしめた。
「大竹さんが誰を好きでも、お前をメチャクチャ大事に思ってるのは間違いないだろう?じゃなきゃあの大竹さんが、毎週お前のために自分の時間を使ったりするもんか。それでも、自分が大竹さんを好きな気持ちと、大竹さんがお前を好きな気持ちが同じじゃないのが辛いのなら、もう大竹さんの所に行くのはよせ。お前が辛いだけじゃない。大竹さんも辛くなるだろう?」
「うっ……うぅっ…でも、でも俺……でも俺大竹先生の傍にいたいんだ……!」
「だったらそんな顔すんな!」
苦しくて、苦しくて、どうして良いのか分からない。さっき振り払った山中の腕に、設楽はしがみついた。
しばらくの間、山中は設楽をただ抱きしめていた。もうキスを仕掛けてくることはなかった。どれだけそうしていたのか。山中は小さく笑った。
「まったく…お前、隙だらけなんだよ。もういっそさぁ、体使って大竹さん陥としたら?」
「かっ、体って…!!そんな男が体使ったって、普通に引くだろ!?大竹先生ノンケだぞ!」
「そっかなぁ。こんだけ毎週設楽とデートしてんだぜ?意外と陥ちるかもよ?」
設楽は真っ赤になって、山中の腕から今度こそ離れようともがいた。だが山中は、当然のように笑ってそれを許さない。
「もー!そーゆーこと言うのは、先生がふしだらなゲイだからだろ!」
「お前だってゲイのくせに、差別すんなよ」
「俺は一途で可愛いゲイなんだよ!一緒にすんな!!」
「あははは、ほんとだ、可愛い可愛い」
ぐりぐりと頭を撫でられて憤慨する。10個も年が違うんだから当たり前だが、まったく子供扱いだ。
不意に、山中の手が、優しく頭を撫でた。
「先生?」
「うん。設楽は可愛いよ」
「先生…?」
その手が頬にかかり、優しく微笑まれる。
「お前は、ちゃんと好きな人と幸せになりなさい。大竹先生に守ってもらうだけじゃなくて、大竹先生を幸せにしてやれるくらいの男になりなさい」
もう1度、山中は設楽を抱きしめた。
山中の手には、慈しみしかなかった。
「やっぱ俺、山中先生のこと好きになったのは正解だったんだなぁ」
「そうだろう?こんな良い男を振って大竹さんのとこに行ったんだから、それを辛いとか苦しいとか思うなんて間違ってるぞ」
「うん。ありがとう、先生」
山中の腕の中は暖かくて、居心地が良かった。ずっとここにいたかった。でも、設楽が求めているのは、このぬくもりではないのだ。
「ありがとう、先生。ありがとう」
設楽はその言葉しか知らないかのように、山中の腕の中でありがとうと言い続けた。
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