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結晶ー7

 指の先にまで力を込めて、大竹の背中を抱きしめる。しなやかな首筋に額を押しつけるようにして、体中で大竹を好きだと訴える。  怖くて怖くて、心臓が破裂しそうだった。  大竹には、あまりにも自分の最低なところを知られすぎている。例え大竹がさっき好きだと言ってくれたとしても、それが気のせいなのではないかと思うと吐きそうになる。  震える設楽の背中に、大竹の腕が伸びた。そのままその腕は背中から頭に廻り、設楽の頭をぽんぽんと叩く。 「……多分俺、お前のそーゆーとこに惚れちまったんだろうな」  優しい声。  設楽は埋めていた大竹の肩から顔を外し、その声のした方をゆっくりと見つめた。  大竹は笑っていた。  いつものからかいや意地悪や皮肉っぽさなどかけらもない笑顔で。  少し恥ずかしそうに、でもなんの躊躇いもなく笑ってくれたから、設楽は思わす胸が引き搾られるほど切なくなり、同時に体中が幸福感で包まれて、このまま死んでしまうのではないかと思った。  俺は、きっとこの人になら何度でも恋をする。  こんな笑顔を見せてくれるこの人を、俺は何度でも好きになる。 「先生…」  この人が、好きだ。  この人を絶対に自分の物にしなければ。  そして俺を、この人の物にしてもらわなければ。  設楽は体中が震える気持ちで、大竹の肩に手を置いた。大竹と、視線を絡ませる。  2人の隙間が徐々に無くなっていくのに、設楽も大竹も目を閉じたりはしなかった。  互いの瞳の中に映っている自分の姿を見ながら、2人は唇を重ねた。  先程までのどこか焦ったキスとは違う。  少し乾いた大竹の唇の感触を味わって、それから大竹の唇を軽く噛んでみた。少し引っ張ると、大竹の腕が設楽の背に回り、下唇を噛む歯に大竹が舌を這わせる。慌ててその舌を設楽も舌で捉えると、口の外でしばらく互いの舌を絡ませた。  大竹の目が、悪戯っぽく笑う。そこにはもう先程の戸惑いは見えなかった。  先生ともっと唇を交えたい。キスだけで達きそうだ。どうしよう。好きな人と気持ちを重ねて交わすキスが、こんなに気持ち良いなんて知らなかった。  大竹の少し肉厚な舌に舌を絡められて吸い上げられると、直接自分自身をしゃぶり上げられているような錯覚に襲われる。躊躇いを捨てた大竹は大胆で、設楽をゾクゾクと狂わせる。あまりの気持ち良さに目眩がする。ふわふわと体が浮いているようで、気がつくと大竹にしがみついて、設楽は自分の腰を大竹に擦りつけていた。  設楽の唇から漏れる息が、欲望を孕んでいる。  大竹を抱きたいと思う。  大竹に抱かれたいと思う。  互いの秘密をさらけ出して、どちらの体かも分からないくらい、ぐちゃぐちゃに熔けてしまいたい。  きっと大竹となら、それが許される筈……。 「先生…」  大竹のシャツをめくり上げ、滑らかに盛り上がった背筋に手を添わせ……  ────そして 「ストップ。ここまでだ」 「は?」  最初、何を言われたか分からなかった。  気がつくと自分の体は肩を掴まれて、大竹から引き離されていた。  ────え?────  大竹は目元を赤く潤ませて、湿った荒い呼吸をつきながら、設楽から体一つ分離して床に視線を這わせている。 「……え?……ここまでって……ど、どーゆーこと?」 「……卒業するまでは、お前とはしない」 「え?」  卒業するまでは、お前とは、しない?  お前って……俺のことだよね……?卒業……?卒業って…… 「卒業!?そんなの、一生できないのと同じじゃない!?や……やだよ!!俺もうこんなだよ!?」  大竹にも分かるようにシャツをめくって自分の股間を指さすと、大竹は「見せるな!」とまだ赤いままの頬でそっぽを向いた。 「え?嘘でしょ?何の冗談?ちょ……今更ここでやめるとか……!!」 「悪いけど、本気だ」 「な…何で!?今俺のこと好きだって言ったじゃん!俺のこと、先生の恋人にしてくれんじゃないの!?」  信じられないとにじり寄ると、大竹はもう一度設楽から距離を取った。  体1つ分空いた隙間が哀しかった。  この隙間が、自分と大竹の心の距離だ。  ぎっと睨みつけると、大竹は設楽の目を見ずに、胸の辺りに視線を合わせていた。大竹の顔が陰になって、その表情が窺い知れない。  どうして……?どうして……? 「……先生、適当なこと言って、誤魔化す気……?俺のこと好きって言ったのは嘘だったの!?」 「嘘じゃねぇよ!お前のことが好きだ。今までこんなに人を好きになったことはないって位、好きだ。俺だって、出来ればお前をすぐにでも俺のモンにしたい。……でも、今はダメだ」 「どうして!?」  大竹は今まで逸らしていた目を上げて、設楽をまっすぐに見た。  怖いくらいに、まっすぐな瞳だった。 「俺がお前の教師で、お前が俺の生徒だからだ」 「先生!」  そんなことは、最初から分かっていることだ。  そんな理由にならない事を持ち出して、はぐらかそうとしているのか。

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